日印首脳会談、アジア太平洋で戦略的連携を


 安倍晋三首相がインドのモディ首相と会談し、日印両政府は日本の原子力関連技術のインドへの輸出を可能にする原子力協定に署名した。また、両首脳は海洋進出の動きを強める中国を念頭に「一方的な現状変更の試みは認められない」として、法の支配の重要性を確認した。

 トランプ次期米大統領がアジア太平洋地域にどのように関わるかが依然不透明な中、日印両国が関係強化を図ったことを歓迎したい。

 両政府が原子力協定署名

 今回署名された協定は、平和利用の目的に限って、日本から原子力関連技術をインドに輸出できるようにするもの。併せて核物質や原子力設備などに関する情報も相互交換することが可能になる。

 署名に至った背景には、高い経済成長が続き、深刻な電力不足に悩むインド側と、海外への原発輸出を後押ししたい日本側の思惑の一致がある。さらに、中国の勢力拡大への動きに対抗し、アジアの自由主義陣営の大国である日印両国が提携を強化しようという安全保障上の狙いがあると言っていい。

 さらに署名は、米国で共和党のトランプ氏が次期大統領に就任することへの対応だとも考えられる。トランプ氏は「米国第一」主義を掲げ、日本などの同盟国に米軍駐留費用の負担増を求めたり、駐留米軍の撤退をほのめかしたりするなど、同盟関係の一方的な見直しを迫る発言を繰り返してきた。また、今後の安保政策の基本として「米国は世界の警察官にはなれない」と発言するなど内向き姿勢を示してきた。

 米国がトランプ政権となり、アジアへの関与を弱めるとすれば、アジア情勢の不安定化が加速しよう。南シナ海やインド洋での中国の活動がさらに活発になると予想されるからだ。米国の影響力低下に備え、日印両国の連携強化が喫緊の課題となっている。その意味で、今回の日印協定は評価されよう。

 ただ、過去に核実験を行い、核兵器を保有するインドに対して、唯一の被爆国である日本が原子力分野の協力を進めることには、被爆地の広島や長崎を中心に根強い懸念がある。このため政府は今回の協定とは別の文書を交わし、インド政府が2008年に出した「核実験を凍結する」という内容の声明に違反する行動をした場合には、協力を停止することを確認している――と説明している。

 日印協定の大きな意義は、原子力の平和利用についてインドに責任ある行動を取るよう求め、インドを国際的な不拡散体制に実質的に参加させる道を開いたことであろう。これは「核兵器のない世界」を目指し、核不拡散を推進している日本の立場に合致するものだ。

 一方、インドはすでに協定を結んでいる米国から原子力技術の提供を受けているものの、部品の多くは日本製なので日本と早く協定を結ぶ必要に迫られていた。

 中国にらんだ関係強化を

 インドは投資と技術を日本に頼り、経済関係は密接だ。今回の原子力協定署名を機に、中国をにらんで両国が関係を一層強化することが望まれる。