比大統領来日、中国封じ込めへ関係強化を


 フィリピンのドゥテルテ大統領が来日し、安倍晋三首相と会談した。ドゥテルテ氏は親日家として知られる。両首脳は、南シナ海問題の平和的解決や米国を含む3カ国協力の重要性を共有する共同声明を発表した。

「常に日本の側に立つ」

 ドゥテルテ氏は首脳会談の冒頭、中国が領有権を主張する南シナ海の問題に関連し「法の支配の下に平和裏に問題を解決したい」と強調。その上で「われわれは仲裁判決が出たという範囲外の立場を取ることはできない」と述べ、仲裁裁判所の裁定を尊重する考えを示した。

 「われわれは常に日本の側に立つつもりだ」とも語り、「法の支配に向かって努力することが大切だ」と述べるなど日本の主張に寄り添う姿勢を見せた。「日本とフィリピンは同じような状況にある」との率直な発言は、額面通りに受け取りたい。

 両首脳の会談は9月にラオス・ビエンチャンで開いたのに続き2回目。ドゥテルテ氏は安倍首相のフィリピン訪問を招請し、首相も快諾した。近くの友人とのさらなる率直な対話が信頼関係の強化につながる。

 安倍首相がすべきことは従来通り、中国の封じ込めを基本とし、米国、ベトナム、インドなどとの協調も踏まえた関係強化ということに尽きる。ドゥテルテ氏は訪日に先立ち中国を訪問した。中国は大規模な経済支援で取り込みを図っている。ドゥテルテ氏の祖父は中国人で、祖母がイスラム教徒なので、中国への親近感がある。

 これまでの経歴で見られる共産勢力への距離の近さを考えれば、中国からの誘惑に乗る恐れは否定できない。それだけに、米国とドゥテルテ氏の橋渡し役を務める上で、安倍首相の立場は難しく、しかし重要となる。

 米国はすでにドゥテルテ氏は中国寄りの大統領であるとみているようだ。周辺がドゥテルテ氏の過激な発言の火消しに回っているが、米国はますます態度を硬化すると思われる。

 過去、フィリピンの新政権は最初は中国に接近し、その後に中国の強い風圧をもろに受けて距離を置き始めるということを繰り返してきた。ドゥテルテ氏は、まずは中国の顔を立てて経済面での実利を獲得し、その上で南シナ海問題での譲歩を引き出す狙いがあるとみていい。

 フィリピンは年率6%前後の高い経済成長が続く。途上国としての立場を抜け出す上で、米国依存を脱し、独自外交にシフトしたいのも本音であろう。

 しかし米国がフィリピンの基地を撤退した後、南シナ海に生じた「力の空白」を埋める形で中国の進出が始まったのだ。2012年以降、中国はフィリピン沖のスカボロー礁を実効支配しており、フィリピン政府は苦々しく思っている。フィリピンの国益や南シナ海の航行の自由を守るには、米国との同盟強化が不可欠であることを、安倍首相はドゥテルテ氏に説明し続ける必要がある。

国交60年で一層の交流を

 今年は日比の国交正常化から60周年に当たる。ドゥテルテ氏の訪日を機に、経済、文化、人的交流をこれまで以上に強化し、日比関係を一層緊密化させる方向に進まなければならない。