各党代表質問、対案とチェックの質を高めよ


 臨時国会は各党代表質問に入り、衆院では民進、自民、公明、共産、維新の主要各党の質問が一巡し、夏の選挙後の参院では民進党の蓮舫代表が就任後初の質問に立った。新たな節目で、国会における与野党の論戦の質が高まることを期待したい。

野田氏が対露外交を批判

 代表質問での注目株は民進党幹事長の野田佳彦元首相だ。民進党は代表選で蓮舫氏を選出し、提案型の野党を目指している。同党内には4年前に旧民主党分裂と政権崩壊を招いた野田氏の幹事長抜擢(ばってき)に反発もあったが、首相経験者が質問に立つことで反対野党のイメージからの脱却を図る狙いもあろう。

 野田氏のチェックで有意義であったのは日露関係だ。安倍晋三首相は所信表明演説で「東シナ海、南シナ海、世界中のどこであろうとも、一方的な現状変更の試みは認められない」と述べたが、ロシアのクリミア併合に触れていないことを「二重基準」と突いたものだ。

 首相の所信表明では今月、プーチン大統領と14回目の会談を行ったことに触れ、日露に「71年を経ても平和条約がない異常な状態に終止符を打ち、経済、エネルギーなど日露協力の大きな可能性を開花させる」と述べた。野田氏は「近年、力による現状変更の試みの最たるものと言えば、ロシアによるクリミア併合」と指摘し、「欧米諸国が経済制裁を継続している中で、ロシアとの経済協力に前のめりになっている」ことに「国益上のマイナス」を懸念した。

 ウクライナ侵攻のほか、シリア停戦の崩壊、米大統領選における民主党陣営へのハッカー攻撃疑惑など欧米とロシアの対立は厳しいものになっている。一方で、中国の存在感は欧米でも日本以上に大きく、特に英独はじめ欧州諸国では市場や投資をめぐり中国への迎合が著しい。日本の野党第1党が代表質問でウクライナ侵攻に批判を込めたことは健全な響きと欧米では捉えられるだろう。

 ただ、国会の憲法審査会での議論の前提として野田氏が自民党憲法改正案の取り下げを求めたのには、首を傾(かし)げる。他党のことであり、しかも自民党は同改憲案を掲げて衆参とも2回、計4回の国政選挙を連勝している。首相は「撤回しなければ議論ができないという主張は理解に苦しむ」と拒否したが当然である。

 共産党の志位和夫委員長も代表質問で自民党改憲案を批判したが、「立憲主義の回復」を唱える民共共闘は、万年野党だった旧社会党の二の舞いにしかならない。民進党は改憲の議論でこそ提案型を示していくべきだ。

 経済成長に向けた議論を

 「税と社会保障の一体改革」を自民・公明とともに進めた野田氏は「3党合意は風前の灯(ともしび)」と批判する一方で、10%への消費税率引き上げ時の軽減税率導入を主導した公明党は、井上義久幹事長が代表質問でも「3党合意は生きている」と強調した。また、アベノミクスの効果を否定し転換を促す蓮舫氏は「多様性を認める社会」との対案だけでは抽象的だ。かつて合意した3党は、与野党の党利党略を超えて経済成長に向けた闊達(かったつ)な議論で矜持(きょうじ)を示してほしい。