日本キューバ、関係強化で北朝鮮を牽制せよ


 安倍晋三首相が日本の現職首相として初めて、社会主義国キューバを訪問した。首都ハバナでラウル・カストロ国家評議会議長と会談し、経済、北朝鮮問題などを協議した。

安倍首相が現職初訪問

 首相はキューバの死因トップであるがん対策向けの医療機器提供のため、12億7300万円の無償資金協力を申し出て書面で合意した。キューバへの本格的支援の第1号となる。また、日本の医療技術や機器の使い方を習得してもらう医師育成拠点「キューバ・日本医療センター」設立に向け両国が調査を始める。同センターは日本側が経済協力の柱と位置付けている。

 このほか、首相は日本への返済が約30年間滞っている中長期債務約1800億円のうち、延滞利子分に当たる1200億円の返済を免除する方針を伝えた。日本貿易保険(NEXI)は停止していたキューバ向け投資保険の新規引き受けを再開し、日本企業の進出を後押しする。国際協力機構(JICA)は現地に事務所を開設する。

 キューバは昨年7月、米国と54年ぶりに国交を回復。オバマ米大統領は今年3月、米大統領として初めて社会主義革命政権発足後のキューバ訪問を実現した。米国との関係改善は、キューバの観光産業に大きな恩恵をもたらした。今年1~7月にキューバを訪れた観光客は245万人に上り、前年同期比約12%増となった。

 米国と友好関係にある欧州やアジア諸国の要人もキューバを相次ぎ初訪問し、外交関係の再構築に乗り出している。将来の発展への期待の表れだ。日本は1970年から85年までキューバ第2位の貿易相手国だったという実績がある。着実に経済関係を拡大したい。

 もっとも、キューバは人権問題を抱える。今年3月の米キューバ首脳会談でも、オバマ大統領が人権状況の改善を促したのに対し、カストロ議長は「両国の違いは消えない」と応酬した。日本は関係強化をキューバの民主化進展につなげるべきだ。

 一方、キューバは北朝鮮と伝統的な友好国である。安倍首相はカストロ議長との会談で、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮が挑発行為を停止するよう、キューバからの強い働き掛けを促した。

 首相は北朝鮮について「従来と異なるレベルの脅威だ。東アジアの平和と安定は極めて重要だ」と述べ、制裁強化に向け協力を要請。拉致問題の早期解決への理解と協力も求めた。ラウル氏の兄で59年のキューバ革命を主導したフィデル・カストロ前議長にも、北朝鮮に厳しく対応する必要性を訴えた。キューバを巻き込んで北朝鮮に対する包囲網を強化すべきだ。

 北朝鮮は今月、5回目の核実験に成功した。先月から今月にかけて発射した弾道ミサイルの中には、秋田県や北海道沖の日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾したものもある。

非核化へ各国との協力を

 キューバとの関係強化は北朝鮮を牽制(けんせい)する一つの手段と言えよう。安倍首相は今後も、北朝鮮の非核化と拉致解決に向け、各国との協力を進めていく必要がある。