今の9条のままでいいのか


 今国会で初めてとなる党首討論が行われ、安倍晋三首相と岡田克也民進党代表、志位和夫共産党委員長、片山虎之助おおさか維新の会共同代表がそれぞれ論戦を交わした。来年4月に予定される消費税率8%から10%への引き上げの判断、自民党憲法改正草案をめぐる改憲論議に的が絞られたが、多分に7月の参院選を意識した舌戦だった。

岡田氏が自民案を問題視

 首相に対して岡田氏は消費税、憲法、志位氏は消費税、片山氏は消費税、憲法について議論の俎上に載せたが、議席数から持ち時間を割り振るため、片山氏に至っては4分しかない。党首討論が開かれたのも昨年6月以来で、片山氏から「そろそろ見直した方がいい」と討論の在り方を問う発言が出たのは一理ある。

 消費税をめぐる討論内容は、可能性が高まりつつあるとみられる「増税先送り」をいかに自らの手柄として演出する状況に持ち込むかのつばぜり合いとなった。岡田氏は、首相の「リーマン・ショックか大震災級の影響がない限り引き上げを予定通り行う。そういう状況にあるかないかは専門家の議論により適切に判断する」との従来通りの答えに対して「先送りせざるを得ない状況だ」と訴え、2019年4月までの延期、2年間は赤字国債により社会保障財源を補うなど4項目の提言をした。

 1月の株価続落中に始まった通常国会では、野党側には消費増税先送りが衆参同日選の理由になる警戒感もあった。しかし、4月の熊本地震で衆院解散には踏み切れないと見て党首討論にぶつけた形だ。党代表の提言である以上、民進党は参院選の公約に据えよう。

 ただ、首相が14年の前回衆院選に向け、増税延期と衆院解散を表明した記者会見で「再び延期することはない」と述べたことから、安倍内閣が来年4月の増税を先送りした場合には「総辞職せよ」と主張することは御都合主義である。「再延期」という同じ結論ならば、野田政権下で当時野党の自民・公明と共に社会保障財源確保のため消費増税を決定したのと同様に運命共同体ではないのか。

 一方、岡田氏は自民党改憲草案の9条改正案に「自衛権の発動を妨げるものではない」と明記されたことに「集団的自衛権の行使を全面的に認めるもの」と問題視して「平和主義が貫かれているのか」と疑問を呈した。首相は「国連憲章も平和主義を貫いている。岡田さんの言い分では国連憲章は平和主義ではないことになる」と自衛権を明記する同憲章を例に反論したが、正鵠を射た答弁だろう。

 岡田氏は「今の9条を変える必要はない。9条のままでいい」と述べたが、個別的自衛権が平和主義であるとの考えは虚構である。制定当時は自衛権否定と解釈された条文であり、9条護憲は戦後長らく自衛隊解消論とセットとして旧社会党、共産党などが主張してきた。

安保で現実的な改憲案を

 民共共闘の選挙戦略を直に反映した討論内容だったが、国の自衛権を縛ることで「平和」をアピールするのはごまかしだ。安全保障に関して現実的な条文案を発議できるよう望みたい。