安保法廃止法案、同盟関係弱め国益にそぐわぬ


 昨年成立した安全保障関連法を廃止する2法案を、民主、共産、維新、社民、生活の野党5党が共同提出する準備を進めている。中国、ロシア、北朝鮮など冷戦時代から軍事を優先してきた国々の脅威に我が国は直面し続けており、生命線である日米同盟関係を強める同法の廃止は国益にそぐわない。

 参院選での集票が狙い

 特に野党であっても政権担当能力を持つ責任政党であろうとするならば、日米安保条約廃棄や共産革命を展望する綱領を持つ共産党の党利党略に巻き込まれてはならない。

 安保法制をめぐる昨年の通常国会の審議では、集団的自衛権を事実上一部容認する閣議決定に対して「違憲性」が議論され、5野党は「違憲立法」と批判して反対した。だが、安倍晋三首相はじめ政府・与党側が何度も答弁したように違憲か否かは最高裁判所が判断する。

 もちろん野党は少数であるため、廃止法案は提出されても成立しない。安保法への違憲訴訟を反対派は準備中だが、1票の格差是正のように最高裁判決によって与党が動くかは仮定の話にもならない段階である。実際の5野党の一番の目当ては、反対運動と連動しての参院選に向けた集票であろう。

 だが、反安保法制をめぐる集票は5野党に平等とはならないことは、共産党が一人勝ちした昨年の宮城県議選などから明らかだ。他の野党は結果的に、組織力が強い共産党に力を貸すことになる。

 また、「安保法廃止」は時代に逆行している。今年に入ってからも北朝鮮が「水爆」と称する核実験と長距離弾道ミサイル発射実験を行った。

 南シナ海ではベトナムやフィリピンが領有権を主張する南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国が岩礁を占拠している上、浅瀬を埋め立てて人工島を築き、自由航行が脅かされることが懸念されている。

 沖縄県・尖閣諸島沖の領海への中国公船の侵入は続いており、中国では沖縄の領有を主張する研究論文が増えている。安保政策に隙が生じれば東シナ海にも強引な「力による現状変更」が及びかねない。

 安保法廃止法案を出そうとしている5野党のように、立法府である国会で、自分たちの国の平和と安全を守ろうとする政府を縛ろうとする「立憲主義」は大いに疑問だ。

 今通常国会では、衆院予算委員会で自民党の稲田朋美議員が憲法9条の問題点について質問し、首相は自民党の改憲案に触れながら「国会は発議するだけで、決めるのは国民だ。国会が国民に決めてもらうことすらしないのは責任の放棄ではないのか」と述べた。

 野党も改憲案を示せ

 個別的であれ集団的であれ、政府がいつまでも憲法解釈で自衛権をひねり出す必要がないように、条文を改める改憲発議をすることが国会の責務である。

 共産党は冷戦時代から9条護憲と自衛隊違憲論を主張してきた。民主党や維新の党が共産党と決別し、改憲案を示すならば一理あるが、それを抜きに「安保法廃止」で協力するだけでは天下の愚行である。

(2月10日付社説)