甘利氏辞任、国会運営を早急に立て直せ


 甘利明経済再生担当相が辞任した。自らの「政治とカネ」の問題で国政を停滞させてはならないとする決断からだ。景況が正念場を迎え安全保障情勢が緊迫化している中での国会である。国会運営を早急に立て直し、来年度予算案などの重要案件で与野党は建設的な論戦を開始すべきである。

疑惑の徹底解明は当然

 甘利氏は記者会見で、千葉県の建設業者側から2度にわたって計100万円を受領した件について認めながらも、秘書に「適正に処理」するよう指示したと語った。また、政党支部の政治資金収支報告書に寄付の記載があり、「秘書に指示した通り処理されていたことを確認した」とも語った。

 問題の闇は、秘書が受領した500万円のうち、200万円は適切に会計処理したが残りの300万円は秘書が個人的に使用したことを認めた点である。甘利氏は秘書に関する疑惑は全容が解明され次第、改めて説明すると語ったが、政治家に金銭疑惑が浮上すれば徹底解明し公表するのは当然であり、辞任すればそれで終わりというものではない。

 流用した秘書と別の秘書が建設業者側から金銭や接待を何度も受け、秘書2人の辞表を受理したことも当然だが、甘利氏が監督責任を免れないのもやむを得ぬことである。

 環太平洋連携協定(TPP)交渉や成長戦略の策定などアベノミクスの司令塔として奔走してきた甘利氏にとり、この時点で辞任に至ったことは無念であろう。2月4日にはニュージーランドで行われるTPPの署名式に出席し、それを花道に辞任するとの観測もあったほどだ。

 「国政に貢献をしたいとの自分のほとばしる情熱と、自身の政治活動の足下の揺らぎの実態と、その落差に気が付いたときに、天を仰ぎ見る暗澹たる思いだ」というのが、甘利氏の偽らざる心情だろう。

 安倍政権にとっても大黒柱の喪失は打撃だ。安倍晋三首相は「任命責任は私にある。国民に深くおわびしたい」と語った。しかし、早期の辞任表明が、安倍政権にとって最もダメージの小さい選択であったことは確かだ。安倍首相は盟友の甘利氏を守ろうとしたが、仮に辞任表明が遅れれば国会審議が遅延し政権支持率は低落し続けたに違いない。そうなると、首相は衆参ダブル選挙というカードを失い国会運営の主導権を発揮しにくくなったろう。当面は野党側から責めを受けながらも懸案に取り組まねばならない。

 一方、野党側は「これで幕引きというわけにはいかない」として甘利氏の参考人招致などを要求し、「ゼロベースで話をしていく」構えだ。経済演説のやり直しも求めている。与野党は2月1日に幹事長・書記局長会談を開催し、今後の対応を協議するが、予算案の実質審議入りは2日以降にずれ込む可能性が出てきた。

予算審議を人質に取るな

 野党は、景気動向に直結する来年度予算案審議を人質に取ってまで甘利氏の疑惑解明にのめり込むべきでない。予算の年度内成立は国家の経済再生にとって最優先事項であるからだ。

(1月30日付社説)