消費増税決定での景気腰折れ対策に心血注げ


安倍晋三首相が、来年4月に消費税率を5%から8%に引き上げることを正式に表明した。この日に発表された日銀短観の改善を受けての決断である。
増税による悪影響を緩和するため、5兆円規模の経済対策も表明されたが、デフレ脱却途上の増税は景気回復の勢いを削ぎ、税の自然増収拡大の道を自ら塞ぐことになる。財政の悪化が懸念される。

自律的拡大の段階でない

安倍首相のブレーンである浜田宏一、本田悦朗両内閣官房参与らは、消費増税の点検会合などでも、デフレ脱却の途上であり増税実施にはまだ早いとして実施時期の1年延期や、消費増税の悪影響を最小限にとどめるために年1%ずつの引き上げを主張していた。この点は本紙も同じである。
しかし、こうした意見は点検会合では少数だった。増税を見送った場合、財政運営が国際社会の信認を失い、長期金利が上昇し、深刻な財政危機を招くとの懸念の声も出た。安倍首相としては、こうした心配もさることながら、消費増税を予定通り実施しなければ国会対策上の代償が大きいことを勘案したのであろう。

実施しない場合、消費増税関連法の改正が15日召集予定の臨時国会で必要となる。それが、安倍政権が臨時国会で優先したい国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案や、成長戦略の大きな目玉となる産業競争力強化法案などの成立に影響しかねないからである。

今回の日銀短観では景気の回復傾向が改めて裏付けられた。また、2020年夏季五輪の東京招致に成功したことで数兆円の経済効果も見込まれる。こうした経済環境の好転も増税決断を促す判断材料になったのであろう。

ただ、そうとはいえ、現在の景気回復が自律的拡大の過程に入ったと見るのは早計である。設備投資の伸びがようやく見込める段階になってきたというところである。何より、雇用・賃金は改善が遅れている。円安、原材料価格の高騰から燃料や食品などで値上げが相次ぐが、民間給与は2年連続で前年を下回っている。

安倍首相は消費税率引き上げと同時に、3%の増税分のうち2%分に相当する約5兆円の経済対策を発表した。このような大規模な対策が必要であること自体、デフレ脱却途上であり、増税の影響が小さくないことを裏付けるものである。本来であれば増税実施の時ではないということである。

消費増税は「アベノミクス」によって上向いてきた景気を自ら腰折れさせる懸念が強い。税の自然増収拡大の道を塞ぎ、1997年度の増税時同様、財政が悪化しかねない。

8%時に軽減税率導入を

安倍首相が増税実施を決断した以上、これからの半年はそれこそ重要である。景気回復を少しでも力強いものとするために心血を注ぐべきである。同時に、低所得者対策として、住民税非課税世帯への「簡便な給付」という手段だけでなく、食料品などへの軽減税率を8%引き上げの時点から導入するよう急ぐべきである。

(10月2日付社説)