8億円借り入れ問題 いつも政治睨む国民に


 「今日は人の身、あすはわが身」という日本古来のことわざを今、しみじみ痛感しているのはみんなの党の渡辺喜美代表だろう。渡辺氏は正義派の硬骨漢だ。政治家の不正にはことさら敏感でいつも目を光らせている。ところが立場が逆転し、この正義派で硬骨漢が、その他大勢の硬骨漢たちにお叱りを受けそうな雲行きになってきた。

 渡辺氏の8億円借り入れ問題が表面化し、同氏の立場がだんだん苦しくなってきた。人の弱味にはきびしいくせに、自分の弱味には甘い。こんなイヤ味や悪口があちこちで囁(ささや)かれている。清潔と正義が売りものの渡辺氏にとっては耐え難い侮蔑(ぶべつ)だ。

 しかし、ひとの噂は、本人がいかに弁解しても広がるものは広がる。渡辺批判もこの類のひとつだ。本人がどんなに反省し、いかに言い訳しても空しい努力でしかない。

 下手をすると政治問題化するおそれがないともいえない。渡辺氏は日頃、正義派を看板にしているだけに、知らず知らずのうちに他人を傷つけている。その恨みつらみはバカにならない。知らぬは本人だけだ。そのため、この反渡辺ムードがこじれてくると、うるさくなりそうだ。

 政治家はミスを犯しても責任を取らない。みんな他人のせいにしてしまう。その他人こそいい面(つら)の皮だ。しかし他人の面の皮にも程度の差がある。ダマって苦笑いするものもいるが、威丈高になって反撃してくるのもいないわけではない。後者の場合は輪が広がっていくだけに、騒動のタネになりかねない。

 しかし、自分のミスを他人のせいにするのは、永田町の悪いクセで、与野党ともに見られる共通現象だ。国会の権威と、国会議員の品位からいっても、このクセだけは一刻も早く止めた方がいい。

 しかし、もっとタチの悪いのがいる。自分がマッチをつけて、ひと騒ぎ起こしながら「大変だ、大変だ」とフレまわる手合いがそれだ。しかし、フレまわるのも悪いが、それに乗って先走りする慌て者もいる。天下の代議士がそんな軽はずみで騒いでは困る。もっとドッシリした構えで天下国家を睨(にら)むのが本当の国民の選良だ。

 しかし国会をバカにしてはいけない。バカにすれば復讐(ふくしゅう)を受ける。天下の代議士を敵に回せば勝ち目はない。代議士をうまく使うのがコツだ。代議士にうまく使われるような国民では将来が心細い。政治は平時の鍛錬が肝要だ。国民はいつも永田町を睨んでいなければならない。

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