東京都知事選で舛添氏当選、「脱原発」にノーの賢明な選択


 猪瀬直樹前知事の辞職に伴う東京都知事選で舛添要一元厚生労働相が当選した。

 舛添氏は2020年の東京五輪・パラリンピックの成功や災害に打ち勝つ街づくり、「世界一の福祉都市」などを訴え、そのトータルな首都像と手腕に都民は期待を寄せた。舛添新知事は新都政に果敢に挑んでもらいたい。

 五輪や防災、福祉が課題

 今回の都知事選では、「脱原発」を唱えて立候補した細川護熙(もりひろ)元首相が、小泉純一郎元首相とタッグを組み、シングルイシュー(単一争点)化を狙った。

 また共産党と社民党が推す前日弁連会長の宇都宮健児氏も、東京電力の柏崎刈羽原発の再稼働に反対するなど脱原発を公約の中心に据えて訴えた。一部メディアも両候補に便乗し、「脱原発の国民投票」などと煽(あお)った。

 これに対して都民は明確にノーを突きつけた。電力やエネルギーは国家全体の問題で、多角的な検討が必要だ。東京は人口約1300万人を擁し、わが国の国内総生産(GDP)の2割近くを生み出す巨大都市(メガシティ)で、都民生活の課題は多岐にわたる。

 にもかかわらず、都知事選に原発問題を持ち込み、その単一争点で都知事を選ぼうというのは典型的なポピュリズム(大衆迎合)だ。1990年代に世界都市博覧会中止の単一争点で登場した青島都政が著しく停滞し、21世紀の首都像をゆがめた苦い経験もある。そうしたポピュリズムを見抜き、都民は賢明な選択をした。

 折しもソチ冬季五輪が開催されている。ソチでは会場建設だけでなく、テロ対策などさまざまな課題が浮き彫りとなった。2年前のロンドン五輪では首都再生と連動させた開催計画が作成され、今も都市運営に生かされている。そんな教訓も踏まえ、舛添氏には五輪開催へリーダーシップを発揮してもらいたい。

 都は14年度予算案に5競技場の基本設計費や選手村(中央区)の建設予定地の整備費などを盛り込んでいるが、本格的な予算編成は舛添新知事の仕事だ。ハード面だけでなく、ソフト面でも工夫が望まれる。

 国政との綿密な連携も不可欠だ。世界の人々に感動を与える五輪開催に向け一刻もムダにできない。

 それと表裏一体なのが防災対策で、やはり喫緊の課題だ。選挙戦では元航空幕僚長の田母神俊雄氏が「災害に強い東京」を前面に掲げ、自衛隊や警察、消防、民間などが即時に人命救助ができる態勢づくりを訴えていた。舛添氏にはこうした主張にも耳を傾け、対策に万全を期してほしい。

 都知事選の世論調査では「医療・福祉」や「景気・雇用」など暮らしに密着する施策への都民の関心が高かった。舛添氏は厚労相の経験を生かし「世界一の福祉都市」づくりを約束した。超高齢社会を迎える東京の都市ビジョンを描き、その実現へのプロセスを早急に都民に示す必要がある。

 真摯な都政の運営を

 猪瀬前知事は「政治とカネ」で躓(つまず)いた。このことを舛添氏は肝に銘じ、真摯(しんし)に都政運営に当たるべきだ。

(2月10日付社説)