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新春座談会 インド太平洋構想と日本の安保戦略


台湾有事は日本有事
南西諸島防衛の課題浮き彫り

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新春座談会に出席した(左から)香田洋二元自衛艦隊司令官、山本朋広自民党国防部会長、浅野和生平成国際大学教授、藤橋進世界日報編集局長(司会)

 安倍晋三政権が「自由で開かれたインド太平洋構想」を本格的に進めようとする中、山本朋広・自民党国防部会長、香田洋二元自衛艦隊司令官、浅野和生平成国際大学教授は「インド太平洋構想と日本の安保戦略」をテーマに新春座談会を行った。

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 この中で山本氏は、同構想は、中国の「一帯一路」に対抗するものではないが、中国が東シナ海、南シナ海で力によって現状を変更しようとしていることに「自重してもらい、改めるべきものは改めてもらうというメッセージも込めている」と語った。

 香田氏は、中国が台湾への軍事的・外交的圧力を強めている中で、「仮に中国が最後の手段として軍事力を使って台湾を取るという時に、与那国、宮古、石垣に手を出さない作戦は参謀大学では落第だ」と指摘。台湾有事は日本有事の側面があるとして、「東日本大震災でも『想定外はあり得ない』ということが被害を拡大したというのが一番の教訓」と述べ、台湾有事を想定外とせず、今後議論を進めるべきだと強調した。

 浅野氏は、同構想の中では自由と民主主義の価値観を共有する台湾の地政学的な位置がさらに増大しているとしながら、わが国と台湾との間には尖閣海域の漁業協定などがあるが、みな民間協定であることを指摘。「安全保障に民間の取り決めなど有り得るのか。法的根拠が何もなくて協力できるはずがない」として、「日台交流基本法」の制定を訴えた。

 山本氏はまた、今後の安保戦略について、「日米同盟を堅持し、さらには日英同盟を復活させる、あるいは日豪同盟を新たに結ぶ」など多国間同盟もあり得るとの見方を示した。

中国の先島攻撃を「想定内」に 米の航行の自由作戦支援も

自重求めるメッセージ含む 山本
戦わずして米意図挫く狙い 香田
200年の屈辱晴らしたい中国 浅野

「自由で開かれたインド太平洋構想」は、最初は「戦略」という言葉を使っていたが、後で「構想」という言葉に変わった。これは海洋進出、一帯一路構想を推進する中国との対決的なイメージを和らげるためではないかとの声もある。そこでまず、中国の基本的な国家戦略、それから軍事戦略、その狙いを見ておきたい。

軍事的にA2AD戦略が柱

 香田 習近平主席が国家・国民に与えた「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢(チャイナドリーム)」、この明確なセッティングは国のリーダーとして評価すべきだと思う。ただ、2010年以降徐々に顕著になり、最近急激に先鋭的な関係になっているのが米国との競合・競争・対立である。自国の国家目標を達成する過程で経済的にも軍事的にも米国と対抗してどう生き残っていくかということが中国の最大課題となる中で、軍事的には接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略を柱に据えている。

 これは簡単に言うと、米国と戦うための戦略ではない。向こう20年の軍事力強化を計算に入れたとしても、中国は軍事的にはサイバー等の分野も含め圧倒的に不利なので、戦わずして米国のこの地域に対するプレゼンスとか有事の軍事作戦の意図をくじくことに主眼があるのだ。

 いろいろとある軍事要素の中で特に非対称分野、すなわち物理的破壊を主目的とするミサイルや火砲とは異なるサイバーの活用や衛星の破壊、インターネットの遮断などの米軍のアキレス腱(けん)を突く攻撃により米軍を無力化し得る能力を見せつけて、ワシントンのリーダーあるいは米国民自体に、米国がアジアにおけるプレゼンスを拡大したり、有事の際に中国と戦う気持ちを萎えさせることが軍事的な大きな狙いだ。

山本朋広氏

 山本朋広(やまもと・ともひろ) 昭和50年生まれ。平成17年、衆院選初当選。文部科学大臣政務官・復興大臣政務官、防衛副大臣・内閣府副大臣などを歴任。党国防部会長。京都府出身、当選4回。

 山本 「自由で開かれたインド太平洋構想」というのは、突発的に出てきたように捉えられているかもしれないが、もともと安倍晋三総理は「セキュリティ・ダイヤモンド構想」というのを先に提唱していた。しかし、それではカバーできないいろいろなことが出てきたので、わが国のシーレーンを中心にしっかりと安全保障環境を整えなければいけないということで、それを少し拡大して、自由で開かれたインド太平洋が大切であるという結論に至った。これが中国の「一帯一路」に対抗するのではないかという誤解も招いているようだが、別に対抗しようというものではなく、むしろ中国も積極的に参加してもらえばありがたい話だ。ただ、われわれは法の支配という価値を重んじているので、中国が東シナ海、南シナ海で力によって現状を変えようとしていることについては、きちんと自重してもらい、改めるべきものは改めてもらうというメッセージも込めている。

 これは日本が言い始めたことで、極めて稀(まれ)なケースだが、米政府がその呼称を利用するようになった。さらには、米政府は太平洋軍をインド太平洋軍と改名したが、これは軍事面における本気度を示したと私は理解しているし、民主主義・自由・法の支配という、西側諸国が大切にしているこの価値観を、われわれの生活圏の中でもしっかりと確保していくという意味合いでは大切なことだと思う。

毛以来「世界の強国」目指す

浅野和生氏

 浅野和生(あさの・かずお)昭和34年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。同大学院法学研究科修了。法学博士。平成国際大学教授。著書に『大正デモクラシーと陸軍』『中華民国の台湾化と中国』など。

 浅野 今、山本先生が、西側の価値観として民主主義を挙げたが、逆に中国はそうではない国として、はっきりとイデオロギー国家として存在しているわけで、政権交代のない中国共産党一貫支配の国だ。基本的に「世界の強国としての中国」という最終的な目標は一貫したものとしてあって、毛沢東以来本当は変わっていない。

 昨年の第19回共産党大会での政治報告では実は二つのレベルのことを言っている。最近、米国でよく「100年マラソン」ということが言われるが、1949年建国以来100年の2049年だ。実は習近平はもう一つ、200年という数字も出していて、要するに1840年から42年のアヘン戦争、そこから中国の屈辱の歴史が始まった。これを再興させる。そうすると2042年だが、ほぼ同じ時期に200年来の屈辱を晴らすのだということだ。

 それからもっと近い話としては、中国共産党の結党100年、これが2021年の7月1日だが、これもまた一つの区切りで、この時をどういう形で迎えるか。強国としての国際的な地位を示そうということがあるのではないかと考えている。

最近、トランプ大統領の登場を予言したフランスの思想家ジャック・アタリが『海の歴史』という本の中で、世界的勢力争いは海で決し、今後も海を舞台に覇権が競われると予想している。そして、一番緊張が高まる海として南シナ海を挙げている。南シナ海では中国が軍事基地化を進めているが、その狙いと意味をどう考えるか。

国際法無視し軍事拠点建設

 香田 歴史と共に中国がどうしても避けられないのは地理だ。中国の周辺には、ロシア、旧ソ連のCIS(独立国家共同体)、西アジア諸国、パキスタン、インド、ミャンマー、ベトナム、南シナ海、東シナ海、そしてわが国の列島線がある。

 実は今日の中国は歴代王朝最大のフットプリント(足跡:支配領域)とされる清の再興を目標としていることは世界の安全保障専門家間の常識である。しかし、この最大の支配領域でさえ、地理的には周りを囲まれて外国により閉じ込められていた。今この時代に陸軍力が中国の北部から西部にかけての国境を突破して外国に出るというのはほぼ不可能だ。中国からすると、海洋の自由という一つの特長を利用して東シナ海または南シナ海から出ていかざるを得ない。ところがそこに、シンガポール、マレー半島からフィリピン、台湾、そして台湾から日本により構成される列島線が鎖のように存在することから、中国が地理的に封じ込められているのである。

 中国としては米国と対峙(たいじ)するならば、できるだけその列島線から遠い所で勝負がしたいことは当然だ。そこで中国にとって、そしてわれわれにとっても必然的に日本からマレー半島までの列島線をどう扱うかということが大きな課題になる。今盛んに使われている(中国から見た)第1列島線という言葉は、われわれから見ると必ずしも正しくなくて、これは神様が人類、特にわれわれ海洋国に与えたユーラシア大陸東部を取り囲む戦略上のラインである。中国からすると、現在は米軍を排除してその列島線の外に出て大規模な軍事力を展開する力はないので、当面、影響力を行使するとしたら列島線の内側に存在する南シナ海と東シナ海となるのだ。

 しかし、東シナ海において海軍力で世界3位の中国でも第4位の日本と正面切って向き合うと相当手痛い代償を払う恐れがある。一方南シナ海は、米軍のプレゼンスが連綿としてあるものの、米軍が常に任意の所にいるわけではない。だから、中国としては当面、清国への列強侵出を許したアヘン戦争の入り口にもなった南シナ海を固めるという意味で、できるだけ南シナ海は自分の意のごとくコントロールしたいことは自然な欲求となる。ただ、そこに中国は大きな陸地を持っていないので、国際法などは無視をしてサンゴ礁を埋め立てて人工島を造って出城的な軍事拠点を建設した。それらを活用して南シナ海を自国の権益が及ぶものにしようとしている。

 そして、中国は大陸国家として海上交通に国家の生存を依存した初めての国であるのだ。中国は今、13億9000万の民と、世界第2位の生産力を維持するために、南米各国、オーストラリア、アフリカから大量の物資を輸入し、製品を輸出している。これらはすべて、太平洋やインド洋を通って、今述べた列島線の幾つかの海峡を経て南シナ海、東シナ海に収斂(しゅうれん)して入ってくる。だから中国からすると、国家生存のためにどうしてもこれらの地域・海域およびそこを通る海上交通路の安定、安全を確保する必要がある。そういう意味で、将来の優位な立場を確保する道のりの出発点として、今、海洋力としての米国、および日本、そしてその中核となる日米同盟にチャレンジしているのだろう。

価値観共有重要性増す台湾 浅野
海峡封鎖で米と戦略論議を 香田
「一つの中国」が議論を制約 山本

 浅野 南シナ海について二つのことがある。香田さんが最後に指摘されたように、中国の経済を国家として維持するための重要な通路としての海ということで、それを安全に確保するということ。「一帯一路」で、この場では海の方の話題が中心だが、陸路の方も中国は本気でやっている。鉄道輸送も2011年には中国から欧州へ行く貨物列車は1年間に17本しかなかったが16年には1702本になり、17年には3673本だ。また南シナ海の方から回る航路だけでなくて、北極海の方の航路も開拓していて、一帯一路は今、一帯二路ぐらいになってきているかなと思うが、一つは勢力圏というような意味で、ユーラシアをいかに中国が面で支配するかということが進んでいる。

 もう一方で、安全保障ということでいえば、まさに南シナ海が今焦点になってきているわけで、そうすると、これから台湾が結節点として非常に重要になってきて、日本と米国がこの海をどうするかだけではなくて、台湾との関係も非常に重要になってくる。そこで山本先生がおっしゃったように、「自由で開かれたインド太平洋」のためには「法の支配」が重要だが、中国も「法の支配」という言葉を使っている。共産党大会でもはっきりと言っている。ただし中国の特色を持った社会主義としての法の支配なのだ。(われわれと法が違う)彼らも法の支配という言葉を言っているが、それに対処していかなければならない。

 山本 一帯一路の一路というのは、われわれは一つの道だと思っているのだろうが、たぶん中国の発想には一路というのは1本の道ではなく、ほぼネットワーク的にやっているというのが実態だと思う。東シナ海や南シナ海で軍事協定を作って第1列島線を越える足掛かりにするんだという話ももちろんあるのだろうが、もう既に沖縄・宮古間は中国の艦船がどんどん通過して太平洋に出て行っているので、中国海軍は物理的には太平洋にどんどん進出している。さらに彼らは空母を用意するわけだ。その空母も2隻にするのか、3隻にするのか、どんどん建造していくぞという話で、それが本当に太平洋まで行くと何が起きてくるかというと、今までの日本の防衛は、例えば北方を守ろう、今であれば南西を守ろう、日本海はミサイルが飛んでくるからイージス艦で守ろうとか、そういう発想だったが、太平洋から誰かが攻めてくるということを真剣に考えなければいけない局面に立っている。

EU、一帯一路への熱冷める

香田洋二氏

 香田洋二(こうだ・ようじ) 昭和24年生まれ。防衛大学校卒。元海将。佐世保地方総監、自衛艦隊司令官を歴任。ハーバード大学アジアセンター上席研究員、国家安全保障局顧問などを務める。

 香田 中国というのは過小評価もしてはいけないし過大評価もしてはいけないが、例えば人民解放軍は人的には自衛隊の10倍くらいいる。しかし人民解放軍が日本と正面切って戦えるかというと、沖縄の列島線を日本が仮に封鎖したとしたらどうなるか、その結果は、今多くの方々が心配するものとは少し異なってくる公算もある。具体的には、仮に中国が空母5隻造ったとしても、列島線の海峡をコントロールされた結果、太平洋に出なければ内海に閉じ込められた空母の軍事的意味はほとんどなくなる。私は古いセーラーであり、冷戦期に20年、冷戦後20年のわが国防衛の経験があるが、冷戦時代、日本は少なくともウラジオストクのソ連艦隊を太平洋に出さないということで非常に重要な任務を負っていた。

 実は、今日も相手はソ連から中国に変わったものの、太平洋の脅威は連綿として存在する。それは、わが国、自衛隊として全部は止められないかもしれないけれども8割は列島線で止めるよということであり、また止めなければならないということだ。今、島嶼(とうしょ)防衛として注目されている沖縄本島と宮古・石垣の間の海峡群も実は日本が十分にコントロールできる海域だ。そこは日米で細部にわたり整合された戦略を立てて中国海・空軍をできるだけ太平洋に出さないようにすることが重要である。今は平時なので、中国海・空軍の艦艇や航空機は海という公共財を自由に使ってください、どうぞ、というだけのことである。平時の列島線の自由な通過は全く問題ないけれども、事態が緊張する、あるいは有事ということになると話は全く別で、日本が(海峡を)閉める能力を構築しておくということは非常に重要なことだ。そういうことを今後、日米で整合して論議していくべきだろう。

 一帯一路を安全保障の観点から見ると、やはり中国の借金漬け援助とか、新植民地主義ということもその側面としてあることは間違いない。一昨日までEU(欧州連合)と会議していたが、EUは一帯一路に関しては完全に熱が冷めている。それはなぜかというと構想発表後5年間の実績により正体が見えたわけだ。

欧州主要国は一帯一路構想を自由と民主主義とを目標とする秩序に対する中国の挑戦の一つの手段だとみている。一帯一路を使った安全保障面での取り組みは、ひょっとしたら中国として誤った選択であったかもしれない。当初は力強い支持者であった欧州が離れたことは痛い。

 またロシアからすると今度は北極海が心配だ。ロシアは中国の南シナ海と同じく、北極海は俺の海だと言っている。北極海は、今一枚岩に見える中露がまた袂を分かつきっかけになるかもしれない。一帯一路はこの先、起伏があるのだろう。

海上ルートに関して浅野先生から台湾という同じ自由と民主主義を標榜(ひょうぼう)する国の重要性が指摘されたが、地政学的にも重要性は増していると思うが。

 浅野 安全保障関係を議論する時、地図を横倒しにして東を上にすると、台湾の位置付けが見えやすくなる。東シナ海、南シナ海の結節点としての台湾というのが注目されることになる。台湾は今、米国としっかりした関係があり、米国には台湾関係法があって、防衛性の武器を供与する、役務も提供するとはっきり言っているわけだから、台湾が戦略的に空白になる、あるいは完全に中国の側になるということがあれば、非常に大きなバランスの変更になる。台湾が自由と民主主義の側であり、こちら側の「法の支配」を守る側にあることは非常に重要だ。

 香田 重要な指摘だ。私は北京に平均年3回、台湾にも3回行くが、台湾ではできるだけ国民党と民進党の両方のセミナーに出るようにしている。台湾に行ってびっくりするのは総統府の前に(中国国旗の)五星紅旗が立っていることだ。初めて行った時、本当にびっくりした。彼らは台湾のデモクラシーだと言うのだけれど、注意しなければいけないのは中国の三戦(政治戦、宣伝戦、法律戦)によって、相当中国に浸透されているだろうということだ。中国は同じ民族としての立場を活用し手練手管を使って浸透している。

 ただ戦略的には、少なくとも日米海洋国と大陸中国の真ん中の線の1㍉でも2㍉でもこちら(海洋国)側に何としても台湾をとどめておかなければならない。海洋国日米としては、この線を越えて台湾が向こう側に行くことは許してはならない。オバマ大統領の時は、そこはあまり明快でなく、同様にブッシュ大統領の時も台湾軍の近代化を約束したにもかかわらず10年間何もしなかった。しかしトランプ大統領になって明快になり、既に防衛産業の交流も始まり、台湾の悲願であった潜水艦の自主建造計画の支援も認めた。中国の締め付けが逆効果になったといえる。

台湾有事で先島占領は常識

習近平政権が、台湾への軍事・外交上の攻勢を強める中、台湾有事ということも考える必要があるのではないか。

 香田 台湾有事というのは日本有事だという側面もある。仮に、中国が最後の手段として軍事力を使って台湾を取るという時に、与那国、宮古、石垣に手を出さない作戦計画は参謀大学では落第だ。間違いなく中国は先島諸島を占領しに来る。ところがそんな論議は自民党でもしたことがない。それでは参謀大学では落第だ。(笑い)台湾から与那国まで110㌔、そして宮古、石垣や西表から成る先島諸島は、中国が最後は腹を決めて米国と競り合ってでも台湾を奪取する決心をすれば、躊躇(ちゅうちょ)なく台湾を占領するための侵攻対象となるであろう。その公算が大きいにもかかわらず、日本の防衛政策は狭い意味のわが国の有事のことしか考えていない。台湾有事に関連した先島諸島防衛のことは考慮対象として入っていないのではないか。

 台湾有事の際に中国軍が先島諸島に来る公算は5割以上と考えるが、台湾がきな臭くなっても、現状でわが国は武力攻撃予測事態さえも発動できない。

 ということは、平時の態勢で自衛隊がいてある日突然、台湾海峡で火花が散った。気が付いたら中国軍がそこ(先島諸島周辺)にいたということになりかねない。日本としてそのような最悪の事態は防止しなければいけない。自民党の中でもそういう論議が必要だ。

 私は部隊指揮官として、また東京勤務で海上自衛隊の防衛戦略とか作戦計画のベースを考えてきたので、自然とそういうことを考えるが、このことを政治家やマスコミに言っても聞いてもらえない。やはり触れるのが嫌なのだろう。しかし、少なくとも検討しておかないといけない。東日本大震災でも「想定外はあり得ない」ということが被害を拡大したというのが一番の教訓なので、ここで述べたような事態も想定外にしてはいけない。

 山本 これはすごく重要な指摘だと思う。台湾自身の戦力もかなり充実させつつあるという側面もある。例えば、AH64アパッチ戦闘ヘリ部隊を新設した。もちろんそれも米軍からの供与だが、戦力を増強しているのは間違いないわけで、それは民主主義、西側諸国の一員としては心強いと思う。

 ただ、難しいところは、おそらく香田さんが市ケ谷で防衛政策を練っていた時、誰と交渉したのかは分からないが、日本政府は頑として「一つの中国」で、例えば政務三役は台湾に行ってはいけないと平気で言っている状況だ。だから、台湾有事そのものが想定され得ないのだ。要するに、一つの中国と言う立場を取っているので、単なる内乱・内戦だから日本に火の粉が飛んでこないという理屈、ロジックで多分言っていたと思う。私は沖縄県与那国の陸上自衛隊駐屯地に行ったことがあるが、天気が良ければ台湾が目視できる距離だ。今は、相当リアリスティックに考える議員が政策過程にどんどん入ってきた。

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「インド太平洋構想と日本の安保戦略」をテーマに語り合う、(左から)香田洋二元自衛艦隊司令官、山本朋広自民党国防部会長、浅野和生平成国際大学教授、藤橋進世界日報編集局長(司会)

米世界戦略に日本は不可欠 香田
「日台交流基本法」の制定を 浅野
日米堅持し英・豪と同盟も 山本

 香田 与那国の地元の古老によれば、本当に天気が良ければ年に6回くらい、台湾が見えるらしい。

 山本 そう。そういう距離感だから、そこで何か軍事的衝突が起きているという状況が、まったく日本に対して影響がないと考える方が、香田さんがおっしゃった通り不思議な話だ。そこはきちっとどういうシナリオを描き、どういうオペレーションを考えていくのかというのは極めて大事だ。

 建前の話をすると、平和安全法制でわれわれもいろんな事態において戦力を投入できるようにやっとなったが、それもあくまでも同盟国でわが国の存立に関わってくる場合は、われわれも防衛的手段を取れることになる。ただ、台湾が対象になるかと言ったらおそらくならないと思う。そうなると、香田さんが心配された場面で、自衛隊が本当に出ていけるのかという話になるが、官僚的には、目の前に中国軍が来ているということになれば、そこで防衛出動ができるので、自衛隊は出ていけるという話にはなる。ところが、その時にはすでに遅いわけで、その前に南西諸島に自衛隊が展開できていないといけないわけだ。展開する法的根拠は何なのかということをわれわれは考えておかないと、日本の存立に関わる事態が起きる可能性があると思う。大変良いご意見を頂いた。わが党の国防部会でもきちんと議論していきたいと思う。

 浅野 「一つの中国」という言葉は、真面目に詰めて議論してほしい。

 日本が日中共同声明で「一つの中国」と言っている中国は、「中華人民共和国」ではない。これは、1972年9月29日の日中共同声明の翌日に、自民党の両院議員総会において大平正芳外務大臣は台湾の領土問題では、中国側は「中華人民共和国の不可分の一部」だと主張したが、日本側は「理解し尊重する」とし、「承認する立場をとらなかった」として、「両国が永久に一致できない立場を表した」とはっきり言っているのだ。

 この共同声明を前提として、今の日本は台湾とは民間交流しかないが、日台の窓口機関について、去年大胆な決断で、日本側の実務機関である「交流協会」は1月1日から「日本台湾交流協会」になり、台湾側の「亜東関係協会」が5月17日に「台湾日本関係協会」となった。文言上、「日本」と「台湾」は同様に国であるかのような扱いになっている。いずれにしても、お互いの関係はこの民間団体の合意事項しかない。尖閣海域の漁業権問題にしても、去年、海難救助の取り決めができて、海上保安庁が台湾側と協力して動ける仕組みもできたが、これは全部民間協定だ。だが、安全保障に民間の取り決めなど有り得るのか。法的根拠が何もなくて協力できるはずがない。

 私は、以前から「日台関係基本法」をぜひ作ってくださいと、岸信夫衆院議員などに直接お願いしていて、自民党内で勉強会もやったことがある。だが、台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表は「日台関係基本法」というと、米国の「台湾関係法」を想起するから良くないので、「日台交流基本法」で良いのではないかという。それで結構だ。日本台湾交流協会があるのだから日台交流基本法を作ってほしい。

 それから、もう一つは、防衛駐在官が台湾にいないということ。今の政府で開かれたインド太平洋構想ということで、例えば西太平洋担当武官のようなこの地域一帯の国々を担当、兼轄する方を置いていただく。この考えはいかがだろうか。

現役武官の台湾駐在を模索

 山本 面白い。賛成だ。私が文部科学政務官の時に、台湾に何度か上陸しようとしたが、あえなく却下された。防衛副大臣の時も、何とか理由を付けて行こうとしたのだが、結局行けなかった。駐在武官のこともウオッチしていたが、語学ができて、ある程度のキャリアがあって、リタイア後2、3年は台湾に住んでも良いという人材というとなかなか適当な手配が難しい。私は何とか現役の自衛官を駐在武官に置けないかと模索している。

 香田 日中平和友好条約締結時の日本政府の立場は、当時の外務省の中国担当官はみんな知っている。同時に、昭和10年代の歴史の記憶もあるので、日本がその解釈以上に過剰に忖度(そんたく)をし、自己規制をかけているのが現状だと思う。

 ただ、台湾有事、日本有事、あるいは日台交流法、具体的な人員交流をどうするかといったことを一つの台湾パッケージとして、政府の課題ではあるが、与党としても論議すべきだと思う。

 まさに浅野さんが言われた通り、当時の解釈としては。一つの中国を認めたわけでもないが、理論上で言っても政策として実行できるかは別だ。ただ、この先考えていく上での設計図は要るので、それを政党の側から、特に与党の側から幾つかのパッケージとして継続的に論議をしていくということは非常に必要だ。

 山本 新春の座談会のはずが、多くの宿題を頂いたようだ。

昨年末に新防衛計画大綱が閣議決定されたが、山本部会長は多忙な日々を送られたと思う。

 山本 超弩級(ちょうどきゅう)の忙しさだった。大綱・中期の策定において党内では、国防部会、正副部会長会議、国防幹部会、党外では公明党さんとの与党ワーキングチームと4種類の会議に出席せねばならず、そのような議員は私だけだった。ただ、その分、他の議員に比して圧倒的に深く関与でき、やりがいのある立場を頂いたと感謝している。

「新大綱」で領域横断的作戦

 それで先ほど海の重要性を説いた本の話があったが、今はもう海だけで決する時代ではない。新たな防衛大綱は、もう陸海空という従来の戦闘領域で物事を考えないという発想で、宇宙空間やサイバー空間、電磁波の領域など、領域横断的に作戦を展開できるようにするとした。基本的なコンセプトとして、多次元統合防衛力というものを整備しなければ日本の安全はもう図れない。もちろん物理的な意味で海も空も大切だが、ネットユーザーの間では、インターネットも海と言われる。

 当然、物理的な海ではないが、明らかに広大で、そこを制していかないとまともなオペレーションはできなくなる。そういう意味では、海だけではなく、新たな領域にしっかりと人員、予算、新たな装備を早く配置する必要がある。

 すでに米国、中国、ロシアは宇宙空間やサイバー空間を作戦領域と捉えて軍事的に活用し始めている。もっとも、日本はどうしても専守防衛の国なので、そういうところに一歩踏み出すことは先駆けてはできないが、すでに他国が進出していて、その領域、技術によってわが国の安全が脅かされるという危険性がもう既にあるという状況なので、われわれとしても新たな領域での防衛政策をきちっと立てることが必要だ。新たな防衛大綱にはそういうことをしっかりと書き込んで、10年先を見据えてやっている。海だけではなくそういう領域を超えて安保環境を整備したいと思っている。

 香田 宇宙、サイバー、多次元空間、海というものの共通の特徴は国境がないということだ。だから海ということで、海と狭く捉えていたらダメだ。これらの多次元空間では意図と能力のある国は何でもできるということだ。象徴的にいうと、まだ軍事力では軍事的破壊が最終手段だから、海にスポットライトが当たって、事実として恐らく米国と中国が平戦時を通じて押したり引いたりし、最終的に雌雄を決するのはそこ(海)だろう。同時になぜサイバーとか、宇宙とか、インターネットとか、多次元空間の中で争いが起きるかというと、国境がない分、そこを自由に使える。それで意図と能力のある人ができるだけそれらの空間を自分たちに使いやすくすることから、それらの国の間での競争や競合が起きるのである。それは、海洋と共通だ。今、そこをめぐって片や目に見えないところ(多次元空間)での米中の熾烈(しれつ)な争い、片や目に見えるところ(海)における軍事・政治・外交・経済等あらゆる分野を総動員した実戦に至らない激しい「つばぜり合い」があるというように、捉えるべきだろう。

米中新冷戦的様相を呈してきた状況の中で、日本の安全保障なり日米同盟のあり方は今後どうあるべきか。

 香田 米国の力が衰えているとか、世界の警察官を降りただとか、皆さんいろいろ言われるが、それが客観的に事実かというと私はそうじゃないと思う。

 米国の日本に対するコミットメントや信頼性が落ちているのかというと、私は40年間、日米安保の現場でやってきた立場からいうと、決してそうじゃない。米国が世界第一のG1かG2の一角でいる限りにおいて、米国は日本を100%必要としている。それが故に、日本は、米国が弱くなったが故に米国の信頼性を疑うというよりも、逆に相対的に力を増している中国に立ち向かうために日米安保体制をより強化していくことに主力を置くべきだと思う。

 なぜかというと、米軍の配備が端的にそれを示している。現在、NATOには米軍が8万人いる。NATOは、プーチンが欧州に相当攻勢をかけているので、その対応に手いっぱいなので米国から見ると、世界戦略という観点からは付加価値ではない。あとは在韓米軍で2万8千人だが、これは北朝鮮に縛り付けられている。在日米軍は、外務省は米海軍を入れていないが、海軍を入れると6万5千人くらいになる。海兵隊は総兵力の3分の1を展開している。米国海軍が唯一国外に空母を展開している国が日本だ。海兵隊、輸送艦部隊、そして空軍部隊と、まとめてわが国に展開している。

 もっと重要なことは、軍事作戦に不可欠な膨大な量の燃料と弾薬のストックが在日米軍基地にあることだ。

 しかも日本から西回りに見たら米軍基地がほとんどない。ということは、日本の基地をなくすと、米国は世界戦略が遂行できなくなる。ということは、米国が第一級の力であろうとする限り、日本が必要なことは明白だ。相当高い軍事的なコストを払ってでも日本と組もうとするはずだ。

 それでがっちり日米が組むことにより相対的に力を増してきた中国に対してしっかり向き合える。

 山本 もちろん、日米同盟というのはわが国の外交安保政策の基軸であるので、日米同盟を維持・発展させていくのがわれわれにとって大切であるというのは論をまたない。一方で、それだけで良いのかというのは、私は個人的には思っている。例えば、安倍総理と豪州のアボット首相の時には、「準同盟国的パートナーシップ関係を」という話もあった。今、英国は日本に対していろんなアプローチを試みている。そういう意味合いでは、歴史家がどう評価するかは分からないが、少なくとも日本がアングロサクソンの英国、米国と日英同盟、日米同盟という同盟関係を結んでいた時期は、日本は明らかに安定し、平和を享受して発展できた時期だった。そういった歴史から学べば、今も日米同盟を堅持し、さらには日英同盟を復活させる、あるいは日豪同盟を新たに結ぶとか、そういう多国間的な同盟関係もあり得るのではないか。

 野 私も、日本の安全保障だけでなく、アジア太平洋あるいはインド洋まで含めて、日米安保条約が非常に重要な基軸であると考えている。何よりも、自由と民主主義と人権を擁護し、法の支配を守れる安定したアジアをつくるために基軸になるものであり、価値観を共有できる、戦後の歴史をずっと共有してきた関係として日米関係は今後ますます重要になると思っている。価値観の共有が非常に重要な点だと思う。