あおり運転、法整備を進めて根絶図れ


 バイクにあおり運転をした上、追突して男子大学生を死なせたとして殺人罪に問われた男に、大阪地裁堺支部の裁判員裁判は懲役16年の判決を言い渡した。あおり運転で殺人罪が認定されるのは異例だ。

堺の事故で殺人罪認定

 判決によると、男は昨年7月、堺市で車を運転中、大学生運転のバイクに追い抜かれたことに腹を立て、車線変更してバイクを追跡し、時速100㌔近い速度で追突した。

 男の車に搭載されていたドライブレコーダーの映像には、ライトをハイビームにして執拗(しつよう)にクラクションを鳴らし、急加速させて車線変更する様子が映っていた。衝突直後に、男が「はい、終わり」と軽い口調でつぶやいた場面も記録されていた。

 男は殺意を否認したが、判決は「あえて被害車両に衝突させた。死んでも構わないという気持ちが表れていた」と殺意を認定した。身勝手で悪質極まりない犯行であり、殺人罪の認定も理解できる。

 あおり運転をめぐっては、一昨年に神奈川県の東名高速道路で一家4人が死傷する事故が起きたことで非難する声が高まった。この事故では、パーキングエリアで駐車方法を非難されたことに憤慨した男が、時速約100㌔で非難した男性一家の車を追い抜き、車線変更して進路をふさぐ運転を繰り返し、追い越し車線上に男性の車を停車させた。その直後、大型トラックが追突して男性夫婦が死亡し、娘2人がけがをした。男は自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われ、横浜地裁の裁判員裁判で懲役18年の判決が言い渡された。

 全国の警察が2016年、あおり運転などの車間距離不保持で摘発した件数は7625件に上り、このうち9割近い6690件は高速道路での摘発だったという。警察庁は昨年、道交法以外にも刑法の暴行罪などあらゆる法令を駆使して厳正な捜査を徹底するよう、全国の警察に通達した。

 一方、道交法などにあおり運転の明確な定義はない。これほど大きな問題となっている以上、法整備を進めて根絶を図る必要がある。

 あおり運転をする人には常習性が見られるケースもある。東名高速道路の事故を起こした男は、事故の約1カ月前にも山口県下関市の一般道で妨害走行を3件起こしていた。このうちの1件では、追い越そうとした車の進路を妨害して幅寄せし、接触事故を起こした。山口県警はこの事故で自動車運転処罰法違反(過失致傷)容疑で書類送検していた。

 車の中では周囲の目を気にする必要がないため、普段抑えられている攻撃性が出てきやすく、車のスピードが興奮をもたらして行動が過激化するとの指摘もある。

運転映像を記録したい

 東名高速道路の事故以降、ドライブレコーダーの出荷台数は約2倍になったという。記録された映像が重要な証拠となったからだ。

 あおり運転から身を守るには、自家用車にドライブレコーダーを搭載することも一つの方法だと言えよう。