中国のスパイ活動、日本は防止法を制定せよ


 米上院司法委員会のグラスリー委員長は、中国のスパイ活動に関する公聴会で「米司法省が過去7年間で摘発した産業スパイ事件の9割に中国が関与していた」と指摘した。極めて深刻な事態だ。

企業や民間人も利用

 米政府は8月、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)の製品をサイバー攻撃の温床になっているとして、政府調達から排除することを決定した。今月には、イランへの制裁違反の疑いで捜査している米国当局の要請に応じ、カナダの司法当局がファーウェイの孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)を逮捕した。

 一方、11月には世界最大手ホテルチェーンのマリオット・インターナショナルで最大5億人の顧客情報が流出したことが分かった。これについて、ポンペオ米国務長官は米FOXテレビのインタビューで中国が関与していると指摘。中国政府がスパイ活動の一環でサイバー攻撃を仕掛けたとみられている。

 ペンス米副大統領は10月のハドソン研究所での演説で、中国政府は「あらゆる手段を使って米国の知的財産を取得するよう官僚や企業に命じている」と糾弾した。今後、米政府は技術や情報を狙った中国のサイバー攻撃への取り締まりを強化する方針だ。

 中国のスパイ活動が行われているのは米国だけではない。日本では2007年3月、自動車部品メーカー大手、デンソーの中国人社員が、1700種類の製品データを持ち出したとして横領容疑で逮捕された。この社員は中国でミサイルやロケットの製造開発に関わる国営企業に勤務していた。

 この事件は氷山の一角だ。警察庁は09年版「治安の回顧と展望」の中で、中国の対日スパイ活動について、防衛関連企業などに研究者や留学生らを派遣して「長期間にわたって、巧妙かつ多様な手段で、様々な情報収集活動を行っている」と警告している。

 これに関しては、米共和党のベン・サス上院議員も「中国企業と中国共産党の間にありもしない区別をしたがる人が、ワシントンには多過ぎる」と述べ、中国がスパイ活動のために国家権力だけでなく、中国企業や民間人を利用することへの対処を訴えている。

 日本では今月、外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が成立した。来日する労働者の中にスパイが紛れ込むことへの十分な警戒が必要だ。

 政府は、情報漏洩やサイバー攻撃など安全保障上の懸念が指摘されることから、各府省庁や自衛隊などの使用する情報通信機器の調達先についてファーウェイとZTEを締め出す方針を打ち出した。こうした方針は評価できるが、スパイ活動への対応はさらに強化すべきだ。

各国と同様の対応を

 海外では多くの国々がスパイ防止法を制定、運用して防諜(ぼうちょう)機関が防備に当たっている。しかし、日本にはスパイを取り締まる法律がないため「スパイ天国」と言われてきた。国益が損なわれることのないよう、各国と同様の対応が求められる。