南海トラフ地震、事前避難を定着させたい


 南海トラフ地震の防災対応を検討する政府・中央防災会議の作業部会が、報告書案についておおむね合意した。

 駿河湾から日向灘の南海トラフ沿いでの地震など「前兆」と思われる現象があった場合、巨大地震発生後では避難が間に合わない住民らが、あらかじめ1週間程度避難することなどを盛り込んだ。

「半割れ」など三つの前兆

 報告書案では、巨大地震の想定震源域のうち①東側か西側のどちらかをマグニチュード(M)8以上の地震が襲う「半割れ」②一部でM7以上の地震が起きる「一部割れ」③断層がずれ動く「ゆっくりすべり」――の三つを前兆現象と定義。①の場合、被災していない側でも、巨大地震による津波への避難が間に合わない地域の住民や避難に時間がかかる高齢者らは事前に避難する方針とした。

 事前避難の期間は1週間程度とし、期間終了後も1週間は自主避難の実施など高い警戒体制を求める。一方、②の場合は自主避難、③は備えの再確認など警戒レベルを引き上げることを基本としている。

 南海トラフでは1854年、東側部分で安政東海地震が起きた32時間後、西側で安政南海地震が発生して約3000人の死者を出した。政府の地震調査委員会の長期評価では、南海トラフ沿いで今後30年の間にM8~9級の地震が起きる可能性は70~80%とされる。半割れのケースで事前避難の方針を打ち出したことは理解できる。

 一部割れ後の例としては、2011年3月9日に宮城県沖でM7・3の地震が起きた後、11日にM9の巨大地震が発生した東日本大震災を挙げることができる。巨大地震の可能性は半割れの後ほど高くはないが、油断はできない。

 政府は従来、大規模地震対策特別措置法に基づく東海地震対策として、地震が予知できる前提で住民避難などを計画していた。しかし「確度の高い地震予測はできない」として見直され、気象庁は昨年11月、巨大地震につながる可能性がある現象を観測した場合に「南海トラフ地震関連情報」を発表する体制に移行した。

 今回の報告書案はこうした流れに沿ったものだが、課題も残されている。事前避難は空振りに終わることも多いだろう。社会生活や経済活動への影響も大きく、どのように住民の理解を得るかが問われる。

 南海トラフ地震では死者が最大約32万人、被害総額は約220兆円と想定されている。こうした被害を減らすには、行政の取り組みだけでなく、住民の普段からの備えも求められる。

 事前避難に関しても、日頃から高齢者ら災害弱者への避難支援の訓練などを重ねてスムーズに避難できるようにすることが欠かせない。事前避難を定着させたい。

政府は指針作りを急げ

 住民に事前避難を求めるかどうかの最終的な判断は市町村に委ねられている。自治体からは「専門知識がない中で決めるのは不安だ」と戸惑いの声も上がっている。

 政府は自治体のための指針作りを急ぐ必要がある。