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ゲノム編集で子


 中国・南方科技大の賀建奎副教授が遺伝子を効率良く改変する「ゲノム編集」技術を使い、エイズウイルス(HIV)に感染しないよう受精卵を操作して双子を誕生させたと国際会議で主張した。事実であれば前例のないことだ。科学の名をもって人間の生命をもてあそぶ極めて非倫理的行為であり断じて許されない。

英仏独は法律で禁止

 ゲノム編集は、全遺伝情報(ゲノム)を構成するDNA配列の狙った部分を切断、切除したり、別の配列を挿入、置き換えたりする技術。特に欧米の女性研究者らが開発した「クリスパー・キャスナイン」法は既存の遺伝子組み換え法などより簡単で効率が良く、2013年ごろ以降、急速に普及した。

 だが現在の技術水準では、DNA配列の狙った部分以外を切断したり、改変できた細胞とできない細胞が混在したりして、子の健康に悪影響が生じ次世代以降にも遺伝する恐れがある。現時点では、子を誕生させる研究は行うべきではないというのが科学者の間の共通認識だ。

 このため、先月末のゲノム編集に関する国際会議では「深い憂慮」を感じると非難する声明が発表された。また、日本医師会と日本医学会は「同様な非倫理的行為が行われることのないよう、研究や医療に携わるすべての者に強く要請する」との共同声明を出した。今後も十分な歯止めがかかるよう、世界の科学者が倫理的連帯を強めなければならない。

 法的にも厳しい規制が必要な時期にきている。ゲノム編集を行った受精卵の胎内への移植については既に英国とフランス、ドイツが法律で、また中国が国の指針で禁止し、米国は連邦予算の支出を認めていない。日本では厚生労働省と文部科学省が基礎研究に限定し、胎内への移植を禁止する倫理指針案を検討している。社会全体がこの問題で意識を高め、実質的な法規制への道筋を付けるべきだ。

 一方、ゲノム編集の技術は、農林水産分野で応用され、品種改良が短期間でできる。日本では病気や害虫に強いイネや健康に良い成分を含むトマト、身の厚いマダイなどの実用化を目指して研究が進んでいる。食品に関しては遺伝子組み換えの場合と同様に安全性の評価が課題となり、厚労省が評価方法を検討している。

 また、医療分野ではがんや難病の原因遺伝子を抑制、修復するなど、既存の遺伝子治療法より幅広く応用できる可能性がある。しかし、ゲノムの中にはたくさんの遺伝子が含まれ、常にそのすべての遺伝子が働くのではなく、必要な時や決まった細胞で作用する遺伝子も数多く存在する。生命の仕組みは複雑精妙であり、遺伝子との関係をさらに追究していかなければならない。

中国は厳しい追及を

 中国当局は「中国の関連法に公然と違反した」と非難し、賀副教授の活動を停止させるよう関連部門に指示した。

 中国当局はじめ、この副教授が籍を置く大学、病院の担当機関が中心となって経緯や事実関係を調べ、国際社会にしっかり説明する責務がある。