外国人労働者、本格的な「防諜機関」を設けよ


 外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案が臨時国会の最大の争点となっている。政府は深刻な人手不足の解消を目指して5年間で約35万人の受け入れを想定し、これに対応するため現在の入国管理局を出入国在留管理庁に格上げする方針だ。

スパイが紛れ込む事例も

 だが、外国人労働者の急増は国の在り様に大きな影響を与えるだけに慎重な取り組みが望まれる。とりわけ国家の存立に関わる安全保障面の視点を持つべきだ。出入国在留管理庁だけでなく、本格的な「防諜(ぼうちょう)機関」の創設を視野に入れたい。

 政府の出入国在留管理庁構想では、入国審査官などを500人規模で増員し、出入国に関する事務や不法在留の取り締まりのほか、地方自治体などとも連携して在留外国人の生活環境整備に当たるとしている。受け入れを拡大する以上、こうした組織改編は当然だろう。

 だが、外国人労働者の中には労働だけでなく、違った意図を持つ者もいることを忘れてはなるまい。例えば2007年3月、日本最大手の自動車部品メーカー、デンソーに勤務する中国人技師が同社の機密情報約1700件を盗み出したとして横領容疑で逮捕された。

 中国人技師は中国ではミサイル・ロケット開発を行う人民解放軍直営の軍需工場に勤務しており、日本に留学しデンソーに入社した「軍事スパイ」と断定された。

 こうした事犯を受けて警察庁は09年版「治安の回顧と展望」の中で、中国の対日スパイ活動について、防衛関連企業などに研究者や留学生らを派遣して「長期間にわたって巧妙かつ多様な手段で先端科学技術の情報収集活動を行っている」と警告している。

 また「回顧と展望」はドイツ情報機関の報告を引用し、ドイツの機械・兵器製造企業などが中国の産業スパイ活動によって甚大な損失を受け、3万人の職場ポストが失われたと指摘している。

 海外では、外国人労働者や移民の中にテロリストやスパイ工作員が紛れ込み、治安を脅かす事例が多々ある。米ホワイトハウスは今年6月に「中国の経済的攻撃が米国と世界の技術・知的財産にいかに脅威となっているか」との報告書を公表している(本紙6月25日付「ワシントン発ビル・ガーツの眼」)。

 また中国は10年7月に国防動員法を施行し、有事の際に「全国民が祖国を防衛し侵略に抵抗する」ため、あらゆる物的・人的資源を徴用できるとし、国外に在住する中国人にも国防義務を課した。日本に在住する中国人(昨年末時点で約73万人)もその対象だ。

 産業スパイ活動を行っているのは中国だけではない。ロシアや北朝鮮もそうだ。こうした活動を防ぐために海外ではどの国もスパイ防止法を制定し、防諜機関が防備に当たっている。

国民の生命と財産を守れ

 外国人労働者の多くは善良な隣人になるだろう。だが、安保を脅かす者も紛れ込んでくると見ておかねばならない。本格的な防諜機関を設け、国民の生命と財産を守るべきだ。