LGBT条例成立、言論への抑圧を危惧する


 いわゆる「LGBT」(性的少数者)に対する差別禁止と外国人に対する差別的言動(ヘイトスピーチ)禁止を柱とした東京都の人権条例が自民党とかがやけTokyo(棄権)を除く各会派の賛成多数で可決、成立した。来年4月に全面施行する。

 条例は、運用次第では表現の自由を侵害する恐れがあるだけでなく、都民の価値観への行政の不当な介入に結び付きかねない内容を含んでいる。それが拙速に提出され、十分な審議が行われないまま成立させたことは極めて遺憾である。

「不当な差別」が不明確

 最近は、LGBT運動を批判する特集を組んだ月刊誌が激しいバッシングによって休刊に追い込まれるなど、性的少数者に対する過剰な支援に異を唱える言論活動が萎縮する情勢にある。そんな中で、都の条例が成立したことは、運動を支援するリベラル派団体による「ヘイト」「差別」のレッテル貼りを勢いづかせ、言論抑圧がさらに強まることが危惧される。

 2020年東京五輪・パラリンピックに向け、差別の解消や多様性の尊重といった五輪憲章の理念を広めることを条例の目的としている。しかし「五輪の理念」という名の下に、性質の違うヘイトスピーチとLGBT差別を一つの条例で扱ったことは理解に苦しむ。もちろん、このような条例は全国でほかに例がない。反対しづらくする狙いがあったのではないか。

 条例では、性的少数者に対する「不当な差別解消」、ヘイトスピーチに関しては「不当な差別的言動の解消」を謳(うた)っているが、何が「不当な差別」に該当するのかが不明確だ。その上、知事が不当な差別的言動をしていると認めた個人や団体に対し、公共施設の利用を事前に制限するための基準を設けると規定するなど、運用次第では表現の自由を侵害しかねない内容となっている。知事が公共施設の利用制限を恣意的に行ったり、圧力団体の影響を受けたりしないように、都議会や都民は監視の目を光らせる必要がある。

 また、努力義務とは言え、性的少数者に対する「不当な差別的取り扱い」の禁止に加え、差別解消の取り組み推進に協力することを都民に求めているのは行き過ぎである。性に関する考え方は個人、家庭によって違う。場合によっては、個人の信条や家庭教育に対する行政の不当な介入になる危険性が否定できない。人権尊重を謳うのであれば個人、家庭の価値観を無視することは人権侵害になるということを忘れてはなるまい。

 危惧される内容が幾つも存在するにもかかわらず、条例案は定例議会直前まで明らかにされなかった。採決に当たって「内容も手続きも拙速でずさんだ。条例は人権問題をアピールする手段ではない」として反対した自民党の方に理がある。

小池知事の人気取りでは

 住民と議会に対する十分な説明もなく、条例案を突如発表し、短い審議で成立させたのは、15年に「パートナーシップ条例」を成立させた渋谷区の手法と同じである。LGBTブームに乗った小池百合子知事の人気取りパフォーマンスとしか言いようがない。