防衛白書、踏み込んだ言及ないのは遺憾


 平成30年版防衛白書が閣議で報告された。米朝首脳会談後も核・大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を止めていない北朝鮮について「これまでにない脅威」と強調するとともに、地球規模での軍事力展開能力を強化している中国を「地域・国際社会の安全保障上の強い懸念」と警戒感を表明している。

 概(おおむ)ね妥当な情勢判断だが、これを踏まえた財政上、政策上の対応策についての踏み込んだ言及がないのは遺憾だ。

抑止機能ない「専守防衛」

 わが国の防衛政策は、野党の反対で対応できない分野を対米依存によって対処してきた。冷戦終結後は、米国の国力・軍事力の相対的低下やこれを踏まえた「世界の警察官」の役割放棄という政策のため、このような安易な対応策は取れなくなっている。

 それにもかかわらず、安保政策上の新たな重要課題についても、依然として「日米同盟の深化」との“言葉”で当面を繕ってきた。今年の白書が特に強調している情勢は、これだけでは対応が極めて困難である。

 北朝鮮の事態について、現在配備済みの地上配備型迎撃ミサイルパトリオット(PAC3)、イージス艦搭載の迎撃ミサイル(SM3)に加え、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を採用することで対応可能との判断は極めて安易だ。迎撃ミサイルの撃墜率は期待されるほど高くはない。さらに、北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」が日本全領土内に10分以内で着弾することを考慮すると、対応が万全だとは言えない。

 白書では、依然として「専守防衛」を国是のように扱っている。しかし、安保政策のみならず各種のスポーツでも言えることだが、攻撃力を持たなければ必ず敗北する。それだけではない。敵基地を攻撃しない専守防衛策は、被攻撃側の被害を増すだけでなく、攻撃自体を抑止する機能もない。

 一方、イージス・アショアや新戦闘機を配備するため、既存の装備の整備費などがしわ寄せを受けている。現代戦は、局地戦でも大量の弾薬やミサイルを消費する。しかし、ただでさえ少ない備蓄が減少傾向にあるとみられている。武器類と違って公表資料に掲載されないので、有事になって初めて弾薬、ミサイルの少なさが判明することになろう。

 訓練での事故率上昇も、予算へのしわ寄せの原因となっているようだ。高度の技術を集約した武器の製造は、経済発展を刺激する効果がある。

 主要諸国の防衛費を参考に、何らの理論的根拠のない「防衛費は国内総生産(GDP)の1%以内」という枠を撤廃すべき状況である。

「苦役」の解釈変更を

 一方、自衛隊員の高齢化が進んでいる。幹部、曹クラスはともかく、それ以下の一般自衛官は応募者が非常に少ない。

 これでは有事に戦うことができない。このことは憲法に「自衛隊」の文字を入れて解決する問題ではない。せめて兵役を「意に反する苦役」とする政府の奇妙な憲法解釈を、まず変更すべきであろう。