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高齢者の事故、対策拡充と免許返納の促進を


 高齢者が運転する車による深刻な事故が後を絶たない。被害者やその家族は深い悲しみのどん底に突き落とされる。その大きな責めを負う老いた加害者も、残り少ない人生を悔悟の念に苛(さいな)まれる中で過ごすほかなくなる。悲劇である。

赤信号で進入し4人死傷

 神奈川県茅ケ崎市の国道交差点で、90歳の女が運転する乗用車が横断歩道付近にいた歩行者ら4人をはね、うち女性1人を死亡させた。自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で逮捕された女は、赤信号にもかかわらず交差点に進入したとして容疑を認めている。「歩行者が渡り始めていなかったので、行けると思った」と供述したというが、もとより赤信号を無視して突っ切った運転が悪質なことは言うまでもない。

 その上で「行けると思った」という判断の誤りや、人が渡ってきたのに「加速して交差点を左折しようと思った」という瞬時の対応の狂いが重なったと言えよう。高齢運転者に顕著な死亡事故の一例であり、防止策の強化が急務である。

 今年2月には都内で、78歳の元東京地検特捜部長の弁護士が運転する乗用車が道路脇の店に突っ込み、はねられた歩道の男性が死亡するなど75歳以上の高齢運転者による死亡事故が高水準で続いている。昨年は、運転免許保有者10万人当たりの件数で75歳未満の2倍以上の7・7件に上った。高齢運転者は2021年には613万人に達すると推計されている。

 昨年3月に施行された改正道路交通法では、認知症対策が強化された。運転免許の更新時などの検査で「認知症の恐れ」と判定されると、医師の診断が義務付けられる。その結果によっては、免許が取り消されるようになった。施行から昨年9月末までに約3万人が「認知症の恐れ」と判断され、このうち医師の診断後に免許取り消しとなったのは約670人である。

 今回の事故を起こした女は、昨年12月に受けた認知機能検査では問題なかったとされる。たが、専門家の中には動体視力など安全運転のための機能の何かが衰えていた可能性を指摘する人もいる。今回の事故などは、認知機能のチェックだけで万全の事故防止策となるわけではないことを示している。視力の低下、狭くなる視野、反射神経の衰えなど高齢運転者の特性に応じた対策の拡充が必要である。

 もう一つは運転免許の自主返納の促進である。75歳以上の自主返納は昨年、前年の約16万人から25万人に急増し、1998年に返納制度が始まって以降で最多となった。地方では車なしには生活が成り立たない所もある。各自治体ではタクシーの割引制度や路線バスの乗車券配布などで高齢者の自主返納を呼び掛けているが、さらに返納しやすくなる環境づくりを進めていくことが求められるのである。

実効性ある対策に期待

 警察庁の分科会は新たな視野検査の導入のほか、運転リスクの特に高い80歳以上の運転者の実車試験や、自動ブレーキ、踏み間違え防止機能を備えた「安全サポート車」の限定免許の導入などを検討中だ。さらなる実効性ある対策に期待したい。