脱走受刑者逮捕、住民の不安払拭する防止策を


 愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から脱走した受刑者が、広島市で22日ぶりに逮捕された。

 大井作業場は開放的な環境で受刑者を更生させる「塀のない刑務所」だ。しかし、受刑者の脱走によって周辺住民は不安な生活を送らざるを得なかった。住民が安心できるような再発防止策を講じるべきだ。

別荘の屋根裏に潜伏

 受刑者は脱走後、広島県尾道市の向島北部にある別荘の屋根裏に潜伏。さらに向島から海を泳いで本州に渡り、盗んだバイクや電車を使って広島市に移動した。脱走の理由について「刑務所での人間関係が嫌になった」「あと半年で出所できることは分かっていたが、つらくて耐えられなかった」などと供述しているという。

 向島は広範囲に山林が生い茂り、1000戸超の空き家が点在している。所有者の許可がないと空き家に立ち入ることはできないため、捜索は難航。受刑者の逃走中、向島では現金などの窃盗が相次いで住民は不安を募らせていた。警察が無用な外出を控えるよう要請したため不便な生活も強いられた。

 受刑者逮捕を受け、上川陽子法相は「長期にわたり逃走を続け地域住民の皆さまに多大な心配と迷惑をかけた」と陳謝した。もっと早く逮捕できなかったのか、捜査の在り方を検証する必要がある。

 民間の造船工場内にある大井作業場には、殺人などを犯していない模範囚20人が入所。部屋の施錠はなく、日中は企業の従業員と共に作業する。こうした開放的な施設は大井作業場や北海道の網走刑務所二見ケ岡農場など全国に計4カ所ある。民間人と接する機会が多く、社会に溶け込みやすいため、受刑者の自立を促す効果が大きい。

 2011~16年のデータによると、大井作業場の入所者が再び刑務所に戻る「再入率」は6・9%。全国平均の41・4%を大幅に下回っている。模範囚とはいえ、再犯防止の意味でもこうした施設の必要性は高いと言える。

 脱走した受刑者は窃盗などの罪で懲役刑を受け、服役中に「模範的な受刑者」と認められたため、昨年12月に大井作業場に移送されてきた。受刑者の安全管理のリーダー役である「安全推進委員」を務めていたという。

 だが、今回のような事態が許されるわけではない。再発すれば、施設の存在意義が問われることにもなろう。

 上川法相は「作業所における保安警備や処遇の在り方について、しっかりと、かつ速やかに検証、検討を進めたい」と述べた。法務省内では、再発防止策として全地球測位システム(GPS)装置を入所者に装着して監視する案が浮上している。この方法は既に、広い農場での作業を伴う鹿児島刑務所など全国5カ所で導入されている。

施設の長所を残しつつ

 このほかに顔認証システムの導入や刑務官の増員、カメラの増設などの案も出ている。方向性が固まれば、全国の開放的施設への導入が検討される。

 こうした施設の長所を残しつつ、脱走を効果的に防ぐことが求められる。