年金過少支給、ずさん極まりない情報管理


 年金制度への信頼を揺るがす事態がまた生じた。

 日本年金機構は、データ処理を委託した東京都内の情報処理会社による個人情報の入力ミスをめぐって、2月支給分の年金額が本来より少なくなった受給者数が約10万4000人、総額約20億円に上ることを明らかにした。

委託会社が入力ミス

 情報処理会社は、年金受給者延べ1300万人分の入力業務を請け負っていた。しかし、所得控除申告書の誤入力や入力漏れで約15万人の年金額に誤りが生じ、このうち約10万4000人が過少支給だった。

 1人当たりの減少額は最高5万円に上った。一方、受給者約4万5000人に総額約8000万円の過大支給も生じており、本来より1万円多く受け取った人もいた。機構は4月支給分までに年金額を修正するというが、単なるミスでは済まされない問題だ。

 機構が業務を委託した会社は契約に違反して入力作業を2人1組で行わず、スキャナーを使って紙のデータを読み取っていた。機械が誤認識した漢字などが残り、配偶者の所得区分を示す丸印も誤って認識されたことが、過少支給などにつながったという。

 その上、人手不足などを理由に約500万人分のデータ入力などを中国の関連業者に委託していた。これも契約違反で、個人情報の流出を招きかねず言語道断だ。

 機構もこの会社が入力業務のための設備やシステムを保有しているか確認していなかった。会社は昨年8月の契約時に業務を「800人態勢で行う」と説明していたが、作業が始まった同10月には百数十人しか確保できていなかった。

 理解に苦しむのは、機構が会社による中国への業務委託を確認した後も約18万人分のデータを会社に渡していたことだ。契約に違反した会社に重要な情報の処理を任せることはあり得ない。年金受給者の情報管理には重大な責任が伴うはずだが、あまりにも軽く扱っているように見える。

 機構は、5000万件に上る「消えた年金」問題など相次ぐ不祥事によって社会保険庁が廃止されたことを受けて2010年に発足した。しかし15年にはサイバー攻撃で約125万件の情報が流出し、昨年には元公務員らが対象の共済年金を受給中の配偶者ら約10万人に総額約600億円の年金支給漏れが発覚した。

 機構の水島藤一郎理事長は、情報流出や支給漏れの時も理事長職にあった。不祥事が繰り返されることを、どのようにとらえているのだろうか。強い危機感を持って改革に当たらなければ、機構や年金制度に対する国民の不信感は高まるばかりだ。

分かりやすい制度創設を

 一方、税制改正の影響で昨年度から所得控除申告書の記入の仕方が複雑化しており、2月支給分の年金については、業者の入力ミス以外に約120万人が過少支給になっている。

 高齢者の多くが年金を主な収入源としている。政府は分かりやすい年金制度の創設に努めるべきだ。