北木造船漂着、不審者侵入にも警戒せよ


 先月以降、北朝鮮籍と思しき木造船が日本海沿岸に漂着したり、海上で漂流していたりするのが相次いで発見された。遭難であれば人道上の措置が必要だが、日本への違法上陸を企てた可能性も否定できない。不審者や不審物の有無には細心の注意を要する。

末端住民にしわ寄せ

 秋田県由利本荘市で先月、船係留場に全長約20㍍の木造船が流れ着き、北朝鮮から来たとみられる男性8人が警察に保護された。調べに対し、8人はイカ釣り漁の最中に船が故障し、およそ1カ月漂流していたと話したという。

 これを前後して北海道や青森、秋田、山形、新潟、石川の各県で木造船の漂着・漂流が相次ぎ、中には遺体が発見されたケースもある。十分な装備もない古びた木造船で冬の荒海に出漁してくる背景には、最高指導者、金正恩朝鮮労働党委員長が「冬季漁獲戦闘」と称し漁獲高アップを促していることや、国際社会の経済制裁下に置かれ漁業が食料確保や外貨稼ぎに不可欠な手段になっているという事情があると言われる。

 核・ミサイル開発に狂奔する金委員長の独善的な国家運営が末端の住民にしわ寄せを及ぼしていると言わざるを得ない。

 木造船の多くは最近、豊富な漁場である「大和堆(やまとたい)」と呼ばれる海域に結集している漁船の一部が日本海の強風などで流されてきたものとみられている。操業は日本の排他的経済水域(EEZ)内のことであり明白な違法行為だ。日本の漁業を守るためにも北朝鮮漁船の動きには目を光らせなければならない。

 だが、一連の漂着・漂流を単に人権や産業保護の観点で捉えるだけでは不十分だ。警戒しなければならないことがある。遭難に見せかけた違法上陸だ。

 昨年7月、日本海に面する山口県長門市の路上で、近海まで船に乗って来た後、泳いで海岸にたどり着いたという北朝鮮出身の男性が保護された。ある日突然、北朝鮮の不審者が日本の地を踏んでいたという事実に国民は衝撃を受けた。

 船や乗組員たちが発見された当時の詳細な状況については調べが続いているが、日本上陸の意思がないからといって安心は禁物だ。発見前に日本への違法上陸を果たした別の者がいなかったとは言い切れない。

 沿岸部には各地に原子力発電所が建設されている。東日本大震災から6年以上が経過し、停止していた原発の再稼働も徐々に進んでいる。決して起きてはならないことだが、北朝鮮がこれらの原発を標的にテロを企てる恐れもある。

 日本海沿岸は以前、北朝鮮による拉致事件が多発した場所だ。被害者の一人、横田めぐみさん=失踪当時(13)=が新潟市内で失踪して先月で40年が経過したが、拉致は海から侵入した北朝鮮の工作員らによって行われたとみられている。今なお北朝鮮からの違法上陸に脅かされているという重い現実を忘れてはなるまい。

あらゆる手段で工作

 海岸線を守り抜くのは至難の業だが、北朝鮮はあらゆる手段を講じ対日工作の手を緩めない。対策を強化すべきだ。