拉致帰国15年、もう被害者も家族も待てない


 北朝鮮による日本人拉致被害者5人が帰国してきょうで15年になる。

 帰国した蓮池薫さんと妻の祐木子さん、地村保志さんと妻の富貴恵さん、曽我ひとみさんはその後、それぞれ子供たちや夫の帰国も実現し、日本で平穏な生活を取り戻した。だが、日本政府が認定する拉致被害者12人や拉致の疑いがある「特定失踪者」などの帰国は依然として果たされないままだ。

 疲労感にじみ高齢化も

 ある日突然、何の罪もない日本人が北朝鮮工作員らによって密(ひそ)かに拉致され、独裁国家・北朝鮮で事実上の監禁状態に置かれたまま何十年という歳月が経過してしまった。人生の夢や希望を踏みにじられ、絶望のどん底に落とされても、恐らくは帰国への希望を捨てずにいる彼らの心中は察するに余りあろう。

 日本で帰国を待つ家族も同じだ。失踪当時は真相を明らかにできず、被害者たちは長い間、行方不明者扱いにされた。家族は5人帰国という突破口を開いた2002年の小泉純一郎首相(当時)の訪朝まで孤独な捜索・救出活動を強いられた。北朝鮮が被害者再調査を約束した14年のストックホルム合意も結局は実を結ばず、落胆は大きい。

 帰国15年を前に被害者全員の早期救出を求める集会が開かれ、帰国を果たした本人やまだ拉致されている被害者の家族らが今の心境を吐露したが、一様に疲労感がにじみ出ていた。特に家族らの高齢化が進み、みな「もうこれ以上待てない」という思いでいっぱいだ。

 思えば今年は拉致問題をめぐる節目の年だ。被害者の一人、横田めぐみさんが中学校から下校途中に失踪して来月で40年になる。3月には「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)が結成20年を迎えた。救出に向けた世論喚起につなげたいところだ。

 ただ、節目の時だけ関心を持たれても困る。被害者も家族も一日千秋の思いであり、節目には特段の意味はないのかもしれない。政府はこうした被害者・家族の重い気持ちに寄り添わなければならない。

 来週、投開票の衆院選では北朝鮮の脅威への対応が争点の一つになっているが、家族の中には核実験や弾道ミサイル発射など武力挑発に目が奪われ、拉致問題が影を潜めてしまわないかと心配する人も少なくない。

 その意味でトランプ米大統領が来月の来日で、めぐみさんの両親をはじめ被害者家族と面会する方向で調整が進んでいることは評価できる。日本はもとより国際社会からこの北朝鮮の蛮行により強い関心が寄せられるだろう。

 今政府には、被害者救出のカギを握る北朝鮮の最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長がこの問題をどう考えているのか把握し、全員救出を導き出せるよう金委員長を動かすことが求められている。

 あらゆる選択肢が必要

 一部では、北朝鮮に利用されない保証の下での安倍晋三首相訪朝の是非や自衛隊による救出活動の可能範囲などについても議論されているようだ。あらゆる選択肢をテーブルの上に置き、北朝鮮を揺さぶる時だ。