違法臍帯血投与、安全管理の仕組み整えよ


 他人の臍帯血を無届けで患者に投与したことで、臍帯血の販売業者や医師らが逮捕された事件は、民間臍帯血バンクに対する法規制の不備を浮き彫りにした。政府は安全管理の仕組みを整えるべきだ。

 民間バンクから流出

 臍帯血は、へその緒や胎盤に含まれる血液。さまざまな細胞のもとになる幹細胞が豊富で、白血病治療などに使われる。白血病治療の場合、抗がん剤や放射線で患者のがん細胞をなくした後に臍帯血を移植。幹細胞から作られる白血球が、がん細胞をさらに攻撃する仕組みで、難易度の高い医療だ。

 だが今回の事件では、有効性や安全性が立証されていない大腸がんの治療や美容のため、300~400万円という高額な治療費で臍帯血が投与された。使われた臍帯血は、2009年に経営破綻した茨城県つくば市の民間臍帯血バンクから流出したものだ。

 違法投与された患者は少なくとも約20都道府県で延べ約100人に上るとみられ、このうち3割は外国人で中国人が多いという。このほか、昨年行われた家宅捜索で押収され、つくば市の販売業者が保管を命じられていた臍帯血も、売買の仲介役に流出し、最終的には患者に投与されたとみられている。事件の全容解明が求められる。

 白血病を含む27疾患以外の用途での移植は、再生医療安全性確保法で厚生労働省への届け出が義務付けられている。他人の血液を用いた医療はエイズウイルス(HIV)や肝炎に感染する恐れがある。それにもかかわらず、医師が無届けで臍帯血を投与していたことは極めて危険で許し難い。

 問題は、民間臍帯血バンクの実態が不透明なことだ。民間バンクは料金を受け取って臍帯血を保管するビジネスで、子供が病気になった時に備えるケースが多いと言われる。

 学会などは十数年前から、誇大宣伝や品質管理の問題などを挙げて民間バンクの事業の危うさに警鐘を鳴らしてきたが、厚労省は事業者数さえ把握していなかった。12年に成立した造血幹細胞移植推進法は、白血病患者らに臍帯血を提供している公的バンクの事業を許可制とし、厳重な品質管理を義務付けている。しかし、民間バンクは対象外だ。

 これでは安全性に重大な懸念が残る。臍帯血は、温度管理を誤れば雑菌などが入り、健康被害を起こす恐れがあるという。今回の事件では、流出元の民間バンクが預かった臍帯血が識別番号と一致しないことも明らかになっている。

 販売業者は億単位の利益を上げていたという。厚労省は民間バンクの実態把握を急ぐとともに、安全管理のための規制強化を進める必要がある。

 再発防止を徹底せよ

 2012年のノーベル医学・生理学賞受賞者の山中伸弥京都大教授が開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)には、臍帯血に由来するものもある。

 今回の事件は、再生医療に対する信頼を大きく損ないかねないものだ。政府や医療関係者は再発防止を徹底しなければならない。