太平洋クロマグロ、資源回復への本気度を問う


 韓国・釜山で開かれていた「中部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の小委員会で、太平洋クロマグロの資源量の回復に応じて漁獲枠を増減させる新ルール導入が合意された。日本の提案におおむね沿った内容と、水産庁や漁業団体関係者は安堵(あんど)しているが、この提案自体、クロマグロの最大消費国日本が、資源回復に本気で取り組んでいるのかを疑わせるものだ。

乱獲で資源量が激減

 太平洋クロマグロの資源量は、1961年に16万㌧だったのが2014年には約10分の1の1万7000㌧にまで減っている。原因は乱獲である。このまま乱獲を続ければ絶滅の危機に瀕することは目に見えている。

 日本は16年の総計で太平洋クロマグロの63%を漁獲し、さらにメキシコや韓国からも輸入し、全漁獲量の80%を消費している。そんな日本に対して、野生動物保護団体をはじめとして国際的な厳しい目が向けられるのは当然である。

 太平洋クロマグロの資源回復のためにWCPFCは、24年までに4・1万㌧にまで増やすことを目標に掲げている。今回、日本はこの目標の達成確率が60%以下なら漁獲枠を減らすなど規制を強化する一方で、65%以上なら漁獲枠を増やせるよう提案した。この提案は米国などの反対によって漁獲枠拡大の条件を目標達成確率75%以上とする、より厳しい条件に修正された。

 太平洋クロマグロの資源の枯渇は、成魚だけでなく、30㌔以下の未成魚までも取り続けているところに大きな原因がある。日本が主導して未成魚の漁獲枠を半減することを決めたが、今期の漁獲枠を漁期が終了する前に突破している。

 この状況に危機感を抱いた水産庁は、18年度から未成魚の漁獲規制について、違反の場合は罰則を適応する方針だ。しかし、太平洋クロマグロの資源状態を考えれば、未成魚の漁獲の全面禁止に踏み切るくらいの措置が必要ではないか。

 今回の提案は、ある程度資源回復が見えてきたら、漁獲枠を増すことに主眼を置いたもので資源の回復への長期的で科学的な見通しに基づいたものとは思われない。「魚が増えたら取っていいではないか」という漁業者の要求に沿ったものだろう。

 日本漁業の舵(かじ)を取る水産庁は、漁業者の当面の要求に応えることより、持続可能で長期的にみて漁業者の利益になるように、クロマグロ漁のビジョンと道筋を示すべきである。漁業者が資源回復よりクロマグロを取ることに熱を入れるのは、高級すしネタとして、クロマグロの人気が高く、消費者の需要があるためである。しかし、消費者のマグロへの固執もやや行き過ぎた面がある。もちろんマグロはおいしいから人気があるが、それだけではなく、「大間のマグロ」など、何かとマスコミなどで取り上げられ、クロマグロ人気が煽られていることも事実だ。

水産庁は消費者啓蒙を

 マグロに限っても、クロマグロ以外にミナミマグロなどがあり、すしネタとしても、日本には新鮮で味わいのあるさまざまな魚がいる。消費者の目を他の魚に向くように啓蒙(けいもう)、誘導するのも水産庁の仕事である。