原爆の日、核抑止力向上で惨劇を防げ


 広島は6日、長崎は9日に72回目の「原爆の日」を迎える。犠牲者に深く静かに鎮魂の祈りを捧(ささ)げたい。

 核禁止条約に日本不参加

 広島できょう開かれる平和記念式典では、この1年に死亡が確認された5530人の名前を記した原爆死没者名簿を慰霊碑に納める。犠牲者は30万8725人となった。

 昨年5月にはオバマ米大統領(当時)が広島への歴史的訪問を実現した。さらに、今年7月には国連会議で核兵器禁止条約が採択された。国連加盟193カ国の半数を超える122カ国が賛成。核兵器の使用や保有、製造のほか、核使用の「威嚇」も禁じたもので、前文には被爆者の「受け入れ難い苦痛や損害」に留意すると明記した。

 広島と長崎からは歓迎の声が上がった。広島市の松井一実市長はきょう、平和宣言で条約に言及して「核保有国と非保有国との橋渡しに本気で取り組む」ことを政府に求めるという。

 原爆で大きな被害を受けた被爆者が、条約の採択を喜ぶ気持ちは理解できる。だが、核保有国や日本などは条約制定交渉をボイコット。日本政府は条約に加盟しない方針を発表した。

 日本の条約不参加には批判も出たが、やむを得ない判断だと言えよう。その理由の第一は条約の不備である。条約交渉では核軍縮の具体的措置は議論されず、条約にも盛り込まれなかった。核の放棄や不保持の検証をどのようにするのか、有効な方策のめどは立っていないのが実情である。これでは実効性に欠けると言わざるを得ない。

 第二は、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさである。北朝鮮は核・ミサイル開発を加速させている。トランプ米政権発足後、核実験は行われていないが、核を弾道ミサイルに搭載するための小型化実現も近づきつつあるようだ。その脅威は高まっている。

 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が7月に発表した報告書によれば、北朝鮮は1月時点で10~20発の核弾頭を保有している。世界全体の核弾頭保有総数は1万4935発で、うち配備中は4150発。総数は年々減っているが、各国は核兵器の近代化を進め「近い将来の放棄に向けた備えをしている国はない」と指摘した。

 日本は同盟国・米国の「核の傘」によって他国の核攻撃から守られてきた。北朝鮮が先月、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功したことを受け、マティス米国防長官は「(「核の傘」を含む)拡大抑止を含めた日本の防衛に対する米国のコミットメント(関与)は揺るぎないものだ」と強調した。

 その意味で、核兵器禁止条約の「威嚇」禁止は問題がある。核抑止力を否定する内容だからだ。日本が条約に参加すれば、安全保障体制を維持できなくなるだろう。

 厳しい現実を直視せよ

 日本の条約不参加を批判する人たちは、東アジアの厳しい現実を直視する必要がある。広島・長崎の惨劇を繰り返さないためには、日米同盟を絶えず強化し、核抑止力を向上させていくことが求められる。