宗像・沖ノ島、意義大きい世界遺産一括登録


海の正倉院 沖ノ島 よみがえる建国の神々[電子版]

海の正倉院 沖ノ島 よみがえる建国の神々
[電子版]

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会は、日本が推薦していた「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)の世界文化遺産登録を決定した。ユネスコ諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)による5月の勧告では、沖ノ島(宗像大社沖津宮)と三つの岩礁のみを登録するのが適当としていたが、それを覆し、全8資産の一括登録となったことを歓迎したい。

 文化的価値守った禁忌

 この文化遺産は、宗像三女神を祀(まつ)る宗像大社信仰や、祭祀(さいし)をつかさどる宗像氏にまつわる史跡・文化財を対象とする。自然崇拝を元とする固有の信仰・祭祀が4世紀から現代まで継承されている点などが評価された。

 宗像大社は、天照大神の御子である三柱の女神を祭神とし、田心姫神(たごりひめのかみ)を沖ノ島の沖津宮、湍津姫神(たぎつひめのかみ)を大島の中津宮、市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)を本土にある辺津宮(へつみや)で祀っている。三女神を一体として祀るのが宗像の信仰である。

 イコモスの勧告のまま、沖津宮のみが登録されたのでは、信仰の本質的部分が抜け落ちてしまう。中津宮、辺津宮、大島の沖津宮遥拝所、そして宗像氏の墳墓「新原・奴山古墳群」も登録を認められたのは、日本側のロビー活動によるもので、関係者の努力を多としたい。

 沖ノ島は、九州と韓半島のほぼ中間に位置し、4~9世紀、韓半島や中国大陸との間の航海の安全を祈る国家的な祭祀が行われていた。「日本書紀」では、宗像三女神を「海北道中の道主貴(みちぬしのむち)」として崇(あが)めている。

 島内には祭祀遺跡が年代順に層を成しており、古代祭祀の変遷を物語るものとして貴重だ。新羅製の黄金の指輪、カットグラス片、金銅製龍頭など大陸との交流を示す奉献品も出土している。この島が「海の正倉院」と言われる所以(ゆえん)である。

 沖ノ島が、このような稀(まれ)に見る宗教的・文化的な価値を保持できたのは、絶海の孤島であり、人の立ち入りを簡単に許さないさまざまな禁忌が固く守られてきたことが大きい。島からは「一木一草一石たりとも持ち出してはならない」とされ、また「不言様(おいわずさま)」とも呼ばれるように島で見聞きしたことを口外してはならないとされてきた。

 島では10日交代で神職が1人で奉仕している。今でも女人禁制で、男性も上陸する場合、着衣をすべて脱いで海水でみそぎをしなければならない。

 世界文化遺産に登録され国内外の関心が高まり、沖ノ島を訪ねてみたいという人が増えると思われる。しかし、「神宿る島」としての価値を守るためにも規制は堅持されるべきだろう。

 一方で、この文化遺産に触れたいという要望にも応える必要がある。地元としては観光客の誘致にもつなげたいところだ。どうすればいいのか知恵を絞る必要がある。

 来年以降に経験生かそう

 今回の登録決定で、国内の世界文化遺産は17件、自然遺産を含めた世界遺産は21件となる。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」など、来年以降の登録を目指す8件が「暫定リスト」に挙げられている。今回、逆転一括登録を果たした経験を生かしたい。