藤井四段29連勝、将棋指す子供たちの模範に


 驚異的な記録である。将棋の最年少棋士、藤井聡太四段が歴代単独1位となる29連勝を達成した。どこまで記録を伸ばすか、今後も目が離せない。

 いまだ無敗の中学生棋士

 藤井四段の29連勝は、昨年10月に史上最年少の14歳2カ月でプロになって以来、一度も負けずに作った記録だ。末恐ろしい新鋭である。

 決して相手が弱かったわけではない。29連勝を懸けて対戦した増田康宏四段は、昨年の新人王戦で優勝した俊英だ。対局では途中まで「増田リード」の声も出ていた。しかし、藤井四段は得意の終盤で他のプロ棋士が全く予想しなかった手順で勝利した。

 藤井四段は現在中学3年生。史上5人目の「中学生棋士」である。やはり中学生でプロとなった羽生善治3冠は1996年、当時の7大タイトルすべてを獲得して「7冠王」となったが、藤井四段の29連勝達成はこれに劣らないほどの衝撃的なニュースだ。

こうした強さの秘密はどこにあるのだろうか。藤井四段はもともと、詰め将棋で鍛えた終盤の力には定評があった。だが、序盤や中盤には弱点を抱えていたという。

 そこで役立ったのが人工知能(AI)だった。AIは、これまでのプロ棋士の常識では見向きもされなかった手筋に光を当てて将棋の可能性を広げた。伝統的な詰め将棋と最新技術のAIで実力を磨いたことが、29連勝達成にもつながった。

 昨年は、三浦弘行九段が対局中に席を外して将棋ソフトを使用したとの疑惑が将棋界を揺るがした。調査の結果、三浦九段の潔白が証明されたが、この騒動の責任を取る形で当時の日本将棋連盟会長だった谷川浩司九段が辞任する事態となった。こうした中、AIを活用して力を伸ばした藤井四段の存在は、今後の将棋界にも大きな影響を与えよう。

 将棋は日本の伝統文化である。「礼に始まり、礼に終わる」ゲームと言われるように、勝ち負けがすべてではなく、将棋を通じて人格を磨くという考え方もある。

 藤井四段の受け答えは非常に落ち着いている。29連勝を達成した時も「これだけ注目していただいてプレッシャーはあるのですが、なるべく自然体で指すように心掛けています」と話し、舞い上がるようなところは見られなかった。

 こうした人柄は羽生3冠や、やはり中学生棋士だった谷川九段とも共通していると言える。プロ棋士としてさらなる高みを目指すのは当然だが、人格面でも将棋を指す子供たちの模範となってほしい。

 補習などのサポートを

 藤井四段は学校では普通の中学生だ。だが、納得できないことがあれば理解できるまで教師に質問するという。こうしたところも将棋の強さと結び付いているように思われる。

 プロ棋士の対局は1日がかりで行われる。藤井四段の活躍が今後も続けば、学校の欠席日数も増えることになろう。中学は義務教育であり、藤井四段の通う中学校の関係者には、補習など適切なサポートを求めたい。