性犯罪、撲滅へ不断の取り組みを


 性犯罪を厳罰化する改正刑法が成立した。性犯罪への処罰が軽過ぎると指摘されてきただけに当然の法改正だ。厳罰化というよりも適正化と言うべきだろう。だが、これで性犯罪が防げるわけではない。防止策にも留意すべきだ。

 法定刑の下限引き上げ

 性犯罪は「絶対悪」だ。被害者の尊厳性を破壊し、取り返しのつかない傷を与える。それで「魂の殺人」とも呼ばれる。ところが、刑は強盗などに比べて軽く、被害者の訴えがなければ起訴できない「親告罪」だった。親ら監護者による性犯罪は児童福祉法違反などの比較的軽い刑罰で済むケースもあった。

 今回の改正刑法では、強姦(ごうかん)罪を男性も被害者になり得る「強制性交等罪」に改め、法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げて殺人と同等にし、致死傷罪も5年から6年になった。被害者の心理的負担を軽くするため、検察官が起訴できる「非親告罪」とし、家庭内での児童に対する性犯罪への罰則も新設された。おおむね妥当な改正だ。

 しかし、千葉県松戸市での小学3年女児殺害事件など凶悪な性犯罪が後を絶たない。罰則強化だけでなく、性犯罪それ自体をどう防ぐのか。今後の大きな課題だ。

 とりわけ再犯の防止策が問われる。性犯罪は再犯率が高く、強姦罪の出所者の場合は40%近くに上るからだ(2010年版『犯罪白書』)。

 例えば、04年の奈良女児誘拐殺害事件の加害者(当時36歳)は少年時に強制わいせつ事件を起こしていた。15年の寝屋川中1男女殺害事件の加害者(当時45歳)は、同事件の13年前に強制わいせつなどで懲役12年の判決を受け、14年に出所して再び凶行に走った。

 奈良事件を教訓に刑務所や保護観察所で「性犯罪者処遇プログラム」を受講させる再犯防止教育が進められてきたが、効果は限定的だ。満期出所者には教育を受けずに社会復帰する例があり、「オオカミを野に放つ」との指摘もある。教育やカウンセリングだけで再犯を防げるのか、疑問も残されている。

 海外の取り組みも参考にすべきではないか。フランスでは満期後も教育や監視を受ける制度がある。米国の一部州ではミーガン法で、加害者に住所などの個人情報の登録を義務付け、それを地域社会に告知している。韓国では児童を対象とした性犯罪者は初犯、再犯を問わず一律に薬物治療を行っている。

 いずれも厳しい姿勢で臨んでいる。だが、わが国は加害者の“人権”を理由にこうした施策に消極的だ。

 それで再犯を防げるのか、検討すべきだ。防犯カメラの設置や犯罪を招きやすい死角の解消など地域ぐるみの防止策も心掛けたい。

 家庭教育支援にも目を

 むろん性犯罪者を生み出さないことが最大の防止策だ。専門家は親子関係が歪(いびつ)だったり、愛情不足だったりするなど生育過程に問題がある時、性犯罪に走りやすいと指摘している。家庭教育支援や人の尊厳を守る人格・道徳教育にも目を向けたい。

 改正刑法は性犯罪撲滅への始まりにすぎない。