「退位」最終報告、一代限りの特例法が妥当


 天皇陛下の退位についての政府の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が、最終報告を提出した。天皇、皇后両陛下の退位後の称号・敬称をそれぞれ「上皇陛下」「上皇后陛下」とし、退位後は公的行為を全て新天皇に譲ることなどを提言している。

民進は制度化を主張

 これを受け取った安倍晋三首相は「この問題は国家の基本に関するものであり、長い歴史とこれからの未来にとって重い課題である。議論が深まるにつれ、その思いが一層強くなっていった」と語った。首相の偽らざる実感であり、同じような感想を持つ人は少なくないはずだ。

 また、代替わりによる改元についても、簡単には決められない。2019年元旦や4月案などが出ているが、元旦には重要な宮中祭祀(さいし)があり、あまりにあわただしい。

 退位の法整備をめぐって、政府は「一代限りの特例」とする方向で議論を進めてきた。これに対し、民進党などは皇室典範改正による退位の制度化を主張してきた。この対立は、与党が典範と「一体を成す」特例法での対処とすることで一応の決着をみた。

 しかし先週、自民、公明、民進3党の非公式実務者協議で自民党が示した政府の特例法案は「天皇陛下の退位に関する皇室典範特例法」という名称だ。衆参両院正副議長が3月に安倍首相に提出した各党・各会派の「議長とりまとめ」では「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」であった。「天皇」を「天皇陛下」と記すことによって、今上天皇一代限りの措置であることを示したのだ。

 日本史上、時の権力者が自己の政治的利益のために天皇に退位を強要したり、逆に時の天皇が自己の考えで退位したりする出来事があった。その教訓を踏まえ、明治憲法では退位の規定を設けなかった。

 明治憲法下でつくられたこの制度は、歴史的には新しいが、近代の制度として定着してきた。高齢化など、時代の変化への対応は必要だが、制度の柱の部分の改変には慎重でなければならない。退位に関する恒久的な制度をつくることを避け、一代限りの特例法とする政府の案は妥当である。

 最終報告はまた、皇族数の減少について「速やかに検討を行うことが必要」としている。「議長とりまとめ」では、民進党の要請を受け、皇位継承の安定のために「女性宮家の創設等」の検討を求める内容があったが、最終報告では女性宮家への言及はなかった。

 女性宮家創設が女系天皇に結び付く懸念がある以上、言及は不要だろう。男系継承の伝統を守り、皇位継承を安定させるためには、旧宮家の皇籍復帰の選択肢も排除せずに検討すべきだろう。

伝統の重み踏まえよ

 政府は、天皇陛下の退位実現のため、提言内容を盛り込んだ特例法案を与野党の合意を取り付けた上で、5月後半に国会に提出する。

 退位をめぐる議論が政争の具となってはならない。伝統の重みを踏まえた議論がなされることを期待したい。