GPS捜査違法、犯罪者の高笑いを許すな


 警察は犯罪から国民の生命と財産を守るのが使命だ。それを果たすには旧来の捜査手法だけでは不十分だ。捜査対象者の車両に全地球測位システム(GPS)の端末を取り付け、検挙へと追い詰める手法は有効だ。だが最高裁は、GPS捜査を違法とした。疑問が残る判断だ。

 尾行を補助するため運用

 最高裁が審理したのは、2012~13年に近畿地方などで発生した連続窃盗事件だ。大阪府警は約7カ月間、被告の男(45)と共犯者の車やバイク計19台にGPS端末を取り付け追跡して検挙した。男は一、二審で懲役5年6月を言い渡され、最高裁もこれを支持し有罪が確定した。だが、GPS捜査は違法だという。

 判決は犯罪の生々しい現場を見ない机上のものとしか思えない。犯罪グループは車両を巧妙に使い、警察の尾行や張り込みを振り切って犯罪を繰り返している。薬物犯罪では居場所を突き止めないと証拠隠蔽(いんぺい)を図られる。従来の捜査手法では追跡したり、薬物や遺留物を割り出したりすることに限界がある。手をこまねけば、無法社会に陥る。

 そこで警察はGPS捜査を令状が不要な任意捜査である尾行の補助手段と位置付け運用してきた。それも略取誘拐や逮捕・監禁、強盗・窃盗など社会的危険性の高い犯罪などで「他の手段では追跡が困難」な場合に限った。とりわけ組織犯罪にはGPS捜査が有効だ。こうした警察の運用は理解できよう。

 これに対して最高裁は、個人が権力によってプライベートな領域を侵害されない権利を憲法は保障しており、GPS捜査はその権利を侵すので、令状がないと行えない強制捜査に当たるとして違法と結論付けた。その上で、GPS捜査は事前に令状を提示するわけにはいかないとし、新たな立法措置を促した。

 それでいいのだろうか。確かにプライバシーの侵害は許されない。しかし犯罪者のプライバシー保護に汲々(きゅうきゅう)とするあまり、被害者の生命・財産を軽んじる事態があってはならない。むろん容疑段階では犯罪者と言えないが、情報保護など厳格な運用で権利侵害を防げるはずだ。

 判決は、GPS捜査を否定しなかった。裁判官3人は補足意見として立法には一定の時間を要するとし、「ごく限られた重大な犯罪捜査」では令状発行によるGPS捜査もあり得るとの見解を示した。GPS捜査が犯罪捜査に有効だと認めるからだろう。それならば、立法措置を講じるまでの間、違法とせず、運用を容認すべきだった。

 警察庁は判決を受けて全国の警察に車両へのGPS捜査を控えるよう通知を出した。それによって犯罪者が高笑いしてはいないか、危惧される。国会でのテロ等準備罪の審議では、あり得ない権力行使などを問題にし、テロ被害を忘失した論議もある。世界では常識の共謀罪も悪法のように言い立てている。

 防犯のため継続を望む

 もっと警察を信頼すべきだ。刑法犯は昨年、戦後初めて100万人を下回ったが、それは警察と民間との官民挙げての防犯対策が奏功したからだ。そんな努力を水泡に帰さないためにもGPS捜査の継続を望みたい。