相模原事件、心の闇解き明かす裁判を


 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で昨年7月、入所者19人が殺害された事件で、横浜地検は殺人罪などで元職員植松聖被告を起訴した。

 植松被告には精神鑑定で人格障害があることが判明したが、地検は事件当時、完全責任能力があったと判断した。裁判では責任能力の有無に関する判断はもちろん、大量殺人に至った心の闇の解明が求められる。

検察「責任能力あった」

 夜間に就寝中の障害者19人を次々に刃物で殺害するという衝撃的な事件は、裁判員裁判で審理されることになった。植松被告は事件前の昨年2月、衆院議長公邸(東京都千代田区)を訪れ、障害者殺害を予告する内容の手紙を渡していた。逮捕された後は「障害者は社会を不幸にする」などと供述した。

 全ての犠牲者には首を中心とした上半身に多数の刃物傷があった。植松被告の強固な殺意を裏付けるものだ。差別意識に基づいた凶悪な犯罪であり、刑事責任能力の有無が最大の焦点となる。裁判では、裁判員に過度の負担が掛からないようにしつつ、公正な判断を下せるよう、責任能力などについて分かりやすいプレゼンテーションを行う必要がある。

 植松被告は鑑定留置で人格障害の一つ「自己愛性パーソナリティー障害」と診断された。この障害は、自分が他人よりも優れた存在であり、周囲は自分を特別に扱うべきだとする偏った考えを持つのが特徴だ。

 だが、横浜地検は事件当時、完全責任能力があったと判断した。植松被告は「殺してはいけないことは分かっていた」などと供述。検察は善悪の判断は可能で、入念な犯行準備や事件後に警察署に出頭したことなどから、行動を制御できたことを十分立証できるとした。

 統合失調症などの精神障害と違い、人格障害は性格の偏りであるため、裁判でも責任能力が認められる場合が多い。過去には、自己愛性パーソナリティー障害と診断された殺人事件の被告の判決で、完全責任能力が認定され死刑を言い渡された例がある。

 一方、植松被告が障害者に強い殺意を抱くようになった理由や、凶行を引き起こすに至った経緯など、事件には未解明の点が多い。裁判での審理を通じ、被告の心の闇を解き明かして再発防止につなげる必要がある。

 この事件では、措置入院制度の在り方が問われた。昨年2月に措置入院となった植松被告は3月に退院し、退院後は2回通院しただけで治療を中断した。政府は、措置入院患者が退院後も継続的なサポートを受け、社会復帰できるよう、精神保健福祉法改正案を今国会に提出する方針だ。

警察の予防的介入検討を

 一方、自民党の厚生労働部会などの合同会議は今年1月、警察の対応を批判する決議文を採択。議員からは「殺人予告があった段階で対応できなかったか」という厳しい意見も出た。

 日本の法制度では、警察は犯罪を起こす可能性があるというだけで拘束はできない。だが、このままで同種の事件を防げるのか。警察の予防的介入の在り方についても検討すべきだ。