「和力」で混迷の世界に光を


年頭にあたって

本紙主筆 竹林春夫

 光と闇の交錯する新しい年を迎えた。国際秩序が大きく変化しようとしている。闇の中で右往左往するか、一筋の光に向かってひたすら前進するか。人類の英知が問われている。 昨年、世界の人々に衝撃を与えた米大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の当選と、英国国民投票によるEU(欧州連合)離脱。この二つの出来事の背景を、多くの識者はグローバリズムに対するナショナリズムの反旗と捉え、ポピュリズムの要素も指摘している。

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 しかし、それは表層的な捉え方だ。米国でも英国でも、白人の中産階級や伝統的な価値観の残る地方の人々が感じたアイデンティティー危機が深い底流にある。故・松本健一氏は、これからの時代を領土を奪い合うテリトリー・ゲーム、経済力を競うウエルス・ゲームの時代から、それぞれの民族が自分たちの歴史観や価値観を再構成し、それをもとに主張をぶつけ合うナショナル・アイデンティティー・ゲームの時代になると予測した。

 実際世界では、松本氏が予見したように民族や宗教などアイデンティティーのぶつかり合いが起きている。カリフ制による国家建設を目指す過激派テロ組織「イスラム国」(IS)はもちろん、力による現状変更を強行するロシアや中国も、ロシア帝国や中華帝国に歴史的理想像を描きその再現を目指している。

 このアイデンティティー・ゲームが外交、軍事、経済などさまざまな分野で展開されているのである。国家・民族の誇りのぶつかり合いは、時に国家理性を狂わす恐れもある。まさにJ・K・ガルブレイスが40年前に指摘した「不確実性の時代」である。

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 そういう中で、日本は民族のアイデンティティーをしっかりと保持しながら、それを世界の和合のために生かしてゆかねばならない。その根幹にあるのが皇室を中心とした国体であり、「和」の精神である。

安倍晋三首相は第2次政権以来、「積極的平和主義外交」を展開し、各国から評価を受けている。特に昨年暮れ、米国ハワイの真珠湾を訪問、先の大戦で犠牲となった英霊を慰霊した。

 首相は、「寛容の心」の米国に対し、「和解の力」を強調して日米の絆を確

認した。

 「礼の用は和を貴(たっと)しと為す。先王(せんおう)の道も、斯(これ)を美と為す。小大(しょうだい)之(これ)に由(よ)れば、行(おこな)はざる所あり」(『論語』学而篇)

 「社会的な仕組みは、調和を第一とする。たとえ小さなことでも、大きなことでも同じである」という意味である。

「一に曰く、和(やわらぎ)を以て貴しと為し、忤(さか)ふること無きを宗とせよ」とした聖徳太子の十七条の憲法の第一条の典拠である。

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 覇道と王道、現実と理想をつなげる第三の道、「和道」と「和力」こそ日本が最も得意とする政治文化である。「和道」の基本行動理念は相互理解と相互利益を目指す「互恵」であり、違いを乗り越えて問題解決を導き出す新しい「和」を生み出す理念である。

 この「和」の根底には、「すべてに感謝、すべてに喜び、すべてに愛」という意味合いがある。「和道」「和力」の人類愛こそ、闇を抱えた世界に対して「光」の道しるべであり、日本が誇りをもって世界に発信できる宝であろう。「和道」で世界平和実現の元年になることを願う。