厚木基地訴訟、公共性重視した妥当な判決


 米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県)の周辺住民らが、騒音被害を理由に国を訴えた裁判で、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は二審で認められた「自衛隊機の飛行差し止め」や「将来の被害への賠償」を認めない判決を言い渡した。

 騒音問題は確かに重大だ。だが、自衛隊機は日本防衛の柱である。その公共性を重視した妥当な判決と言えよう。各地の基地騒音をめぐる裁判にも影響を及ぼすことが期待される。

飛行差し止め認めず

 今回は厚木基地の周辺住民が起こした4度目の集団訴訟だ。二審の東京高裁判決は、夜から早朝にかけての自衛隊機の飛行差し止めと将来の騒音被害も含めた賠償を命じたが、双方が判決を不服として上告していた。

 今回の判決で、小池裁判長は「住民は騒音により睡眠妨害や精神的苦痛を、繰り返し、継続的に受けている」と指摘した。住民の立場に配慮したものだ。

 だが、自衛隊機の運航について「わが国の平和と安全に極めて重要な役割を果たしており、高度の公共性がある」とした。自衛隊が夜間早朝の運航を自主規制し、国が防音工事への助成費用として総額1兆円超を支払っている点も考慮して飛行差し止めを認めなかった。

 また、賠償については「将来の被害の分まで認めるのは過去の判例に違反する」として、二審で認められた賠償のうち「将来の被害の分」を取り消した。今回の判決は裁判官5人全員一致の意見であり、妥当な判断と言える。過去分の約82億円の賠償は国が争わず、既に支払われている。

 菅義偉官房長官は今回の判決に関して「国の主張について裁判所の理解を得られた」としている。だが、神奈川県の黒岩祐治知事は「訴訟を通じて基地周辺の騒音被害の深刻さが改めて示された」とするコメントを出した。政府としては、騒音が住民に及ぼす被害を最小限にとどめるべく引き続き努めることは当然のことである。

 今回の判決では米軍機についての言及はなかった。しかし、政府は米側にも騒音の影響に配慮するよう要請するとともに、米空母艦載機の厚木基地から岩国基地への移駐の着実な履行を求めるべきである。

 基地の騒音をめぐる裁判は40年余り前に各地で始まったが、最高裁が1993年に国の賠償責任を認めなかった二審の判断を取り消してから、賠償を命じる判決が相次ぐようになった。その一方で、飛行の差し止めについては高度の判断が必要として訴えが退けられてきた。

 基地訴訟では、民事訴訟での差し止め請求を不適法とする判決が定着している。今回は公権力行使の違法性を問う行政訴訟だったが、それでも請求が退けられた。

運航への制限強化は問題

 北朝鮮や中国の脅威の増大など東アジアは予断を許さない情勢が続いている。騒音問題の解決も確かに大切だが、自衛隊機の運航への制限を強めることは大きな問題があると言わざるを得ない。

 今回の最高裁判決は適切なものとして評価されるべきだ。