医療費抑制、「終末期」への意識変革を


 高騰し続ける医療費の抑制が喫緊の課題となっている。さまざまな医療コスト削減案が検討されているが、医療費の膨張を招く要因の一つに終末期医療がある。国の制度改革を進展させる一方で、国民が死をタブー視せず、終末期医療の在り方を見直す作業も忘れてはならない。

高額な新薬も財政圧迫

 医療費高騰の最大要因は社会の高齢化だ。厚生労働省の調べでは、国民1人当たりの医療費は32万7000円。これも年々高くなる傾向を示しており早急な対策が必要だが、さらに深刻なのは後期高齢者(75歳以上)の医療費で、1人当たり94万8000円に達している。75歳未満の場合は22万円だから、実に4・3倍だ。

 このため、すでに40兆円を突破した医療費は、人口の多い「団塊の世代」が全て後期高齢者になる平成37年には、54兆円に膨れ上がるとの試算もある。

 医療費の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」について、70歳以上の場合、その上限が低く設定されている。厚労省の社会保障審議会は、これを年収などの条件の下、上限を引き上げる見直し案を示している。高齢化に伴う医療費膨張を考えれば、経済力のある高齢者に一定の負担を求めることはやむを得ない措置だろう。

 また、高額な新薬剤の登場も国の財政を圧迫する。その代表ががん治療薬「オプジーボ」で、患者1人当たり年間3500万円も掛かるとされている。高額療養費制度がこの新薬剤の使用を可能にする一方で、使用する患者の増加は、医療費高騰に拍車を掛けることになる。

 政府が本来、30年度となっている薬価の改定時を待たずに、オプジーボの価格を来年2月から半額に引き下げることを決めたのはこのためだ。高額な新薬剤の登場は今後も続くとみられることから、原則にこだわらずに薬価を引き下げることも進めるべきだろう。

 医療施設で亡くなる人が多くなったことも、医療費の高騰と関連している。昨年1年間に亡くなった人は130万人を超えた。これは戦後最低だった昭和41年(約67万人)の倍に迫る数だ。しかも、その8割以上が病院で亡くなっている。

 昭和26年には82・5%が自宅で亡くなっていた。65年間で、それがすっかり逆転してしまったのだ。病院で亡くなる人の数が増えれば当然、医療費は高騰する。

 社会保障・人口問題研究所の推計では、1年間に死亡する人は、22年後には170万人に達する。死亡するまでの入院期間をどう短くするのか。臨終の場所を自宅にすることも考える必要があろう。アンケートを取れば、約8割が自宅で最期を迎えたいと答えている。

在宅ケア支える制度を

 従って、超高齢社会における医療費の抑制を考える時、胃瘻(いろう)や点滴などの延命治療に対する意識変革は避けては通れない課題である。在宅ケアを支える制度の整備とともに、「死は医療の敗北」と考える傾向が強い医療従事者だけでなく、医療を受ける側やその家族も終末期医療の在り方を見詰め直す時に来ている。