原発避難いじめ、「事なかれ主義」を猛省せよ


 「教育の放棄」と批判されても仕方がない。

 東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に避難した中学1年の男子生徒が、転校先の市立小学校でいじめを受けたことへの学校や市教育委員会の対応である。

 背景に周囲の大人の偏見

 「ばいきんあつかいされて、ほうしゃのうだとおもっていつもつらかった。福島の人はいじめられるとおもった」。生徒は手記にこのようにつづっている。

 生徒は2011年8月、小学2年生で転校し、6年生までいじめを受けた。ランドセルを引っ張られたり、名前に「菌」を付けて呼ばれたりしたという。

 3年生で不登校になった後、登校を再開したが、「プロレスごっこ」と称して暴力を振るわれ、5年生になった14年には、ゲームセンターで遊ぶお金や食事代などを生徒が負担するようになった。家から現金を持ち出し、1回5万~10万円、計150万円を支払った。

 手記には「ばいしょう金あるだろと言われむかつくし、ていこうできなかったのもくやしい」とも書かれている。生徒へのいじめは、避難先で苦労する被災者をさらに苦しませる卑劣な行為だと言わざるを得ない。

 学校にも問題がある。両親からいじめ被害の相談を受けた後も「加害者と被害者の言い分が異なる」(市教委)として1年半にわたって対応しなかった。遊興費の支払いを知ってからも「解明は警察に任せたい」との姿勢だったという。

 「事なかれ主義」以外の何物でもない。「なんかいもせんせいに言(お)うとするとむしされてた」と手記に書いた生徒は、どれほどつらかっただろうか。

 13年9月に施行されたいじめ防止対策推進法では、いじめが自殺や不登校、財産被害など深刻な結果を招いた疑いがある場合を「重大事態」として第三者委員会で調べることを義務付けている。

 だが両親の要請を受け、市教委が第三者委に調査を依頼したのは今年1月だった。あまりにも遅い。第三者委は「教育の放棄に等しい」と厳しく批判した。学校や市教委は猛省すべきだ。

 生徒は現在、不登校が続いているが、手記の公表は両親と生徒が希望したという。手記には「なんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」とつづられている。今度こそ生徒の思いをしっかりと受け止め、市は再発防止に全力を挙げなければならない。

 原発事故後、福島県外に避難した子供たちが避難先でいじめに遭うケースは少なくない。背景には、周囲の大人たちの偏見があるのではないか。「放射能がうつる」などと間違ったことを口にすれば、子供たちは影響を受けてしまう。

 仮に、こうした偏見が今回の問題への対応を遅らせたとすれば看過できない。原発事故で避難した児童生徒のいる学校では、いじめの有無を早急に確認することが求められる。

 防止への意識高めよ

 いじめへの迅速な対応が必要とされるのは、福島からの被災者に限らない。教育現場で防止への意識を高めるべきだ。