受動喫煙対策案、一層の強化が求められる


 厚生労働省は2020年東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙防止対策として、多くの人が利用する官公庁や医療機関、学校などで全面禁煙を義務付ける対策案を公表した。

 これまでの「努力義務」と比べれば前進と言えるが、今回の案には不十分な点もある。一層の対策強化が求められる。

 学校などで全面禁煙

 世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」の推進で合意している。近年の開催国は全て罰則付きの対策を講じていたが、日本の受動喫煙対策は努力義務にとどまっている。このため、WHOに「最低レベル」と判定されている。

 対策案によると、官公庁や社会福祉施設、運動競技場などは建物内を禁煙とする。特に医療機関や小中高校は患者や未成年者が利用するため、敷地内全てを禁煙とする。違反者には勧告、命令などを行い、従わない場合は過料などの罰則を適用する。

 厚労省が8月に公表した「たばこ白書」では、受動喫煙で肺がんの死亡リスクが約3割上昇するとした研究結果を示し、心臓病や脳卒中なども含めた受動喫煙による死者は年1万5000人を超えるとの推計値も提示した。喫煙が本人だけでなく、周囲の人たちにいかに大きな害を及ぼすかが分かる。対策強化は当然だ。

 ただ今回の対策案では、飲食店やホテルのロビーは、他にも選択肢があることから、喫煙室を設置した分煙も可能とした。これで十分な対策と言えるか疑問が残る。

 海外では、飲食店を含む公共の場を屋内全面禁煙とする国が14年末時点で49カ国ある。日本で多く見られる簡単な仕切りなどでは、受動喫煙は防ぎきれないとも言われる。07年に開催されたWHOの「たばこ規制枠組み条約」第2回締約国会議では、全面禁煙以外は不完全とするガイドラインが採択された。

 飲食業などは規制強化に反対の姿勢を示している。しかし、たばこ白書では、飲食店の全面禁煙で懸念される売り上げ減少は、海外の文献調査の結果、認められないとしている。飲食店での対策が不十分であれば、客だけでなく従業員の健康も脅かされることになる。

 厚労省は今回の対策案について、関係団体などから意見聴取した上で早期の法案提出を目指す方針だ。丁寧な説明で飲食業などの理解を得る必要がある。

 自民党の受動喫煙防止議員連盟会長の山東昭子元参院副議長は、たばこ税の増税により、たばこ1箱の価格を1000円以上に引き上げるよう菅義偉官房長官に申し入れた。東京五輪を控え、受動喫煙対策強化の機運は高まっていると言えよう。

 オーストラリア政府は大幅なたばこ増税のほか、健康被害を警告する写真をたばこの箱に大きく表示させる規制を導入。この結果、1995年に25%だった喫煙率は、2012年に13%前後まで低下した。日本も見習うべき点がある。

 「禁煙教育」も必要だ

 最近の研究では、喫煙年齢が低いほど依存度が高まるとされる。喫煙者を減らすには、学校での「禁煙教育」も必要だ。