捕鯨妨害禁止、安全確保の取り組み続けよ


 南極海での調査捕鯨を行う日本鯨類研究所(東京)と共同船舶(同)は、米国の反捕鯨団体シー・シェパード(SS)との間で、米連邦地裁での調停により、日本の調査捕鯨船に対する妨害行為を永久に行わないことで合意した。

 ただ、合意は米国内でのみ適用される。グループ団体のシー・シェパード・オーストラリアは妨害行為を続ける考えを示唆している。

 合意は米国内のみ適用

 妨害行為は2005年以降、継続的に行われた。船を衝突させたり、異臭のする液体入りの瓶を投げ付けたりして、乗組員らがけがをしたこともあった。こうした行為はテロそのものであり、捕鯨に反対であっても許されないのは当然だ。

 今回の合意で、SSとその協力者は、調査船・乗員への攻撃と安全な航海を脅かすような船舶航行を禁止される。公海上で500ヤード(約450㍍)以内に近づくことや、グループ団体への資金提供も行えなくなる。

 しかし、安心はできない。同研究所は11年12月、SSの妨害差し止めを求め、米国で提訴。12年12月には差し止めの仮処分命令が出されたが、SSは従わなかった。

 また、合意は米国外のグループ団体には効力が及ばない。シー・シェパード・オーストラリアの代表者ジェフ・ハンセン氏は「引き続き南極海で鯨を保護する」と述べ、妨害行為継続の考えを暗に示した。

 SSの無法の背景には、反捕鯨の国際世論がある。オランダのグループ団体は昨年1月、約830万ユーロ(約9億4000万円)の寄付金を獲得し、トルコで新しい妨害船を建造した。

 日本政府は調査捕鯨の安全確保に万全を期すべきだ。それとともに、調査捕鯨への理解を得られるよう国際社会に対する働き掛けが欠かせない。

 南極海での調査捕鯨をめぐっては14年3月、反捕鯨国のオーストラリアが即時中止を求めて起こした訴訟で、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)が中止命令を出した。SSの妨害行為で鯨の捕獲数が少なかったことが大きいが、捕鯨への無理解も影響していよう。

 日本は捕獲数を大幅に減らした上で昨年、南極海での調査捕鯨を再開した。しかし、資源量を把握するには一定の数のサンプルが必要だ。ICJの判決を踏まえたものとはいえ、疑問が残る。鯨が過剰に保護されれば、他の水産資源に悪影響を与え、海洋生態系のバランスを崩す恐れもある。

 鯨の赤身肉は低脂肪・高タンパクで、健康的な食品だ。世界の人口増加に伴う食料不足の可能性に触れて「タンパク源として鯨の重要性は増す」と指摘する有識者もいる。

 粘り強い情報発信を

 本来、鯨の保護と捕鯨産業の発展を目指して設けられた国際捕鯨委員会(IWC)は、捕鯨国と反捕鯨国の対立の場となっている。ただ、最近では鯨類資源の持続的利用を支持する加盟国も増えている。

 感情的な反捕鯨の主張に屈することなく、捕鯨についての情報を粘り強く発信していくことが求められる。