防衛白書、新たな事態への対応策説明を


 今年の防衛白書が発表された。白書の指摘通り、「アジア太平洋地域における安全保障上の課題や不安定要因は、より深刻化」している。

 この環境下で、日本の安全と国益をどのように守るかが政府・防衛当局の課題だが、これまで通り「日米同盟の強化」を強調している程度だ。 

安保上の課題が深刻化

 わが国の安全保障を考える際、世界情勢、中でも北東アジア情勢についての的確な認識が不可欠であることは言うまでもない。

 ただ注意すべきは、現状認識は安全保障戦略、政策を策定するための前段の手段であって、それ自体が目的ではない。防衛省は、白書を通して国民に、新事態への対応策案や必要な防衛装備を説明すべきである。

 ところが、白書は従来通り、現状認識とこれまで防衛省が実施した施策に多くのページを費やしている。「より深刻化」した事態への新対応策への言及はなきに等しい。

 安保法制の制定は新対応策と言うより、集団的自衛権の行使に関する国際常識を一部取り入れたにすぎない。

 中国の沖縄県・尖閣諸島奪取の動き、南シナ海での人工島建設・軍事基地化や、北朝鮮の核弾道ミサイル開発の進展は、むしろ「危機の新たな段階」である。従って、集団的自衛権行使に関する憲法解釈を、国際常識に一歩近付けただけで対応しきれるものではない。

 わが国では新たな安全保障上の変化が生じると、いつも日米同盟の深化、強化が持ち出される。かつてはそれで切り抜けられた。

 だが、大きな変化が起こっているのは北東アジアだけではなく、欧州連合(EU)や米国などでも生じつつある。冷戦終結後、理想とされてきた国境なき共同体に対する見直しもその一つだ。

 頼りにしている米国内でも、日韓など同盟国に米軍駐留経費の全面的負担を求め、親中国的態度を表明しているドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補になったのである。米国の建国の父たちの教えは「孤立主義」という点も想起すべきである。仮に同氏が大統領に当選しなくても、同氏の主張を支持した多数の米国人がいるという点を忘れてはならない。

 かつてマキャベリは「同盟に安全を託する国家は危うい」と指摘したことがある。このため、安全保障面で米国の支援が得られなくなればお手上げ、という事態は避ける必要がある。

 国家の安全保障は個人の生命保険のような性格を持っている。一か八かではだめなのだ。従って、我々に求められる安全保障政策は、重層的な対応策の構築である。 

自衛隊の攻撃能力整備を

 このように見てくると、自衛隊の攻撃能力を整備することが必要な事態になっている。運動競技でもそうだが、攻撃能力がなければ必ず敗れるからだ。それとともにここ10年近くの防衛費削減で、弾薬、ミサイルの備蓄は大きく減少している。有事における自衛隊員の死傷を懸念するよりも、継戦能力の回復が喫緊事である。