英のEU離脱、欧州統合の原点見失うな


 英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた。前身の欧州共同体(EC)から続く欧州統合の流れが、大きく後退することになった。世界の政治・経済への深刻な影響が懸念される。

排他的なポピュリズム

 英国離脱の衝撃は世界の金融市場を揺るがしている。東京株式市場での暴落に続き、欧米の株式市場も全面安となり、ニューヨーク市場ではダウ平均株価の下げ幅が600㌦を超えた。

 オバマ米大統領はキャメロン英首相、メルケル独首相と相次いで電話会談し、経済などへの影響を最小限にとどめるため連携する方針を確認した。日本を含め各国の金融当局が市場の動揺を抑えるためにしっかりと協力する必要がある。

 英ポンド安で日本円が買われることなどで、円高の傾向が続きそうだ。円安の中で成長路線を進んできたアベノミクスには打撃だが、英国のEU離脱の悪影響を最小限にするため、冷静な対応が求められよう。

 経済面で一番大きな打撃を受けるのが英国であることは間違いない。にもかかわらず、英国民がEU離脱を選択したのはなぜか。

 もともと英国では欧州懐疑派によるEU離脱論がくすぶっていた。ギリシャの金融危機などEUの不安定化、年間30万人を超える移民問題で高齢者や職を奪われたと考える低所得層の不満が強まり、中東からの難民が、それに拍車を掛けた。離脱派が「EUから主権を取り戻す」などと、理性よりは民族感情に訴えたのが奏功した。

 EU首脳が最も憂慮するのが、離脱ドミノである。極右政党が影響力を増すフランスやオランダなどで、EU離脱の是非を問う国民投票の実施を求める動きが出てくる可能性が高い。

 ただ、離脱ドミノが簡単に起きるとも思われない。欧州の統合は進み、それは生活に根差すものになっている。また、英国の場合は、共通通貨ユーロにも参加せず、さまざまな特別扱いを受けてきた。大陸を「欧州」と呼んできた島国の特例的なケースとも言える。

 問題は排他的な自国中心主義を煽(あお)るポピュリズムの風潮である。米共和党の次期大統領候補ドナルド・トランプ氏の発言もそうだが、このような風潮が強まることは、現在の国際社会が抱える問題の解決を助けないばかりか、自由主義・民主主義を奉ずる国々の結束を乱し、世界を不安定化させるものだ。

 こういう時こそ、EU統合の原点を確認する必要がある。EUの出発点となる1952年の欧州石炭鉄鋼共同体の設立は、2度の世界大戦の舞台となった欧州を再び戦場にしないという理念のもとに、両大戦を戦ったフランス・ドイツが中心になって設立された。

国際社会での役割果たせ

 欧州統合は、超国家的共同体とその理想のために、国家主権も部分的に制限するという、近代国家の枠を超える人類史的な試みでもある。その理想の価値を高めるとともに、国際社会において経済や人権、そして安全保障などの分野で果たしている役割を再確認し、試練を乗り越えていかなければならない。