拉致問題の全面解決につながる行動を


 安倍晋三首相は参院選に向けた新潟県柏崎市での街頭演説で北朝鮮による日本人拉致問題に触れ、「全力でこの問題の解決に当たっていくことを約束する」と述べた。政権の最優先課題だと繰り返し強調してきた経緯もあり、当然のことながら選挙用リップサービスでは済まされない。一刻も早い全面解決につながる具体的な行動に踏み出す必要があろう。

 結果出ず歯がゆい国民

 拉致被害者の再調査などを北朝鮮が約束したストックホルム合意から先月末で2年が経過したが、ただ一度の報告すらなされないまま月日が過ぎた。

 特に今年に入って核実験と事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行した北朝鮮への独自制裁を日本が強化すると、その対抗措置として北朝鮮は再調査を行ってきたとされる特別調査委員会の解体を通告してきた。

 そもそも「拉致問題は解決済み」とする北朝鮮との間で溝があったことは否めない。被害者の再調査も今さら調査するまでもなかったはずで、半ば茶番にすぎないという批判的見方もあった。それでも日本としては何とかして交渉のテーブルに北朝鮮を着かせたかったというのが本音だろう。

 菅義偉官房長官は記者会見で合意2年の現状について「いまだ拉致被害者の帰国が実現していないことに対し、大変申し訳ない思い」と述べた。結果が出ない歯がゆさがあろうが、被害者家族はもちろんのこと国民もそれは同じだ。

 北朝鮮は交渉過程で都内にある在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)本部の建物と敷地の競売に強い難色を示したとされる。落札した不動産関連会社は朝鮮総連への転売はしないと明言していたにもかかわらず、結局、朝鮮総連がそのまま使用できることになった。

 日本はこの問題を交渉カードに使って北朝鮮を揺さぶるくらいの気概がどこまであったのか。交渉のやり方を根本的に見直す必要があるのではないか。

 北朝鮮は先月、第7回党大会で最高指導者の金正恩氏を党委員長に選出し、体制固めを内外にアピールした。金委員長が拉致問題で日本にどう向き合おうとしているのか注視しなければならない。

 国際社会で北朝鮮は孤立状態にある。李洙墉党副委員長が先月末から今月初めにかけて関係が悪化していた中国を訪問し、習近平国家主席と会談したが、「核保有国」を世界に宣言した北朝鮮との関係修復に中国がどこまで応じるか不透明だ。11月に大統領選を控える米国や対北強硬政策を崩さない韓国との対話を一時保留にし、日本との関係に孤立打開の突破口を見いだそうとしてくる可能性もある。

 被害者家族の高齢化も心配だ。いつまでも時間があるわけではない。北朝鮮の出方を十分見極めた上で、乾坤一擲(けんこんいってき)の覚悟で臨むことが求められる。

 米韓と連携した圧力も

 北朝鮮による拉致被害者の可能性がある米国人男性、デービッド・スネドン氏の疑惑で日米連携が広がる兆しも出ている。多くの拉致被害者を抱える韓国も含めた国際協力で圧力を掛けることも重要だ。