テロリストへの核物質の流出阻止せよ


 米ワシントンで世界50カ国以上の首脳らの参加の下、核安全保障サミットが開催され、核物質を用いたテロの阻止を「永続的な優先課題」とする共同コミュニケを採択した。

 核テロが実行されれば甚大な被害をもたらす。何としても防止しなければならない。

ISの情報共有を強化

 核テロは今や現実の脅威となりつつある。ブリュッセル同時テロの犯行グループは、核テロを行う計画を立てていたと報じられている。

 テロリストが無差別の大量虐殺を狙うのであれば、放射性物質を含む「ダーティー・ボム(汚い爆弾)」を都市中心部や地下鉄などで爆発、拡散させることは極めて効果的だ。放射性物質は医療機関や研究施設で保管されることが多い。軍事施設ほど警備が厳しくないため、実行が容易である。

 サミットで議長を務めたオバマ米大統領は、各国に核施設の警備を強化するよう求めた。サミットでは、過激派組織「イスラム国」(IS)による核テロを防ぐため、より多くの情報共有が必要だとの認識で一致。国際原子力機関(IAEA)を財政・技術面で支援する行動計画も策定された。核物質の管理強化につなげなければならない。

 サミットに併せて発表された日米共同声明では、日本の高速炉臨界実験装置(FCA)から全ての高濃縮ウラン(HEU)燃料および分離プルトニウム燃料の撤去を完了したことを表明。予定を大幅に前倒しして完了したのは、犯罪者やテロリストによる核物質入手を阻止するためだ。こうした取り組みをさらに広げる必要がある。

 また、北朝鮮の核開発も国際社会の大きな懸念材料だ。今年に入ってから、核実験と長距離弾道ミサイル発射を強行した。地域の安全保障だけでなく、核テロ防止の観点でも看過できない事態だ。

 北朝鮮に核開発をやめさせるには、国連安保理の制裁決議の厳格な履行が求められる。特に、北朝鮮への影響力の大きい中国がカギを握る。日本は米韓両国との連携を強め、中国に働き掛けていくべきだ。

 同時に、原子力の平和利用を進めていくことも欠かせない。安倍晋三首相は、平和利用を継続していくには完全な透明性の確保が必要であり、日本は一貫して透明性の向上で世界をリードしてきたと述べた。今後も信頼を高めていくことが求められよう。

 また、東京電力福島第1原発事故を踏まえ、日本は世界で最も厳しいレベルの新規制基準を作成したが、事故の教訓を世界と共有し、生かしていく必要がある。原発の安全性や事故対策についての体験ならびに知見を世界に広げていくことは日本の使命と言えよう。

日本は安全強化へ尽力を

 核セキュリティーは安全保障の新分野であり、核物質の物理的防護や輸送などの面で課題がある。

 わが国は世界唯一の被爆国であり、核による被害の惨状を身をもって体験している。今回のサミットを機に、世界の核セキュリティーの強化に向けて尽力すべきだ。