中国の防空識別圏設定は尖閣奪取のための策謀だ


 中国国防省が東シナ海に我が国の尖閣諸島上空の領空を含む「防空識別圏」を設定した。我が国の一部では「軍部など国内強硬派向けの対応」として「冷静対処」を強調する向きがある。だが、今回の措置は尖閣諸島奪取のための策謀であり、軽視すべきではない。

 沖縄全体も視野に設定

 昨年9月の日本政府による尖閣国有化を受け、12月には中国機が尖閣付近で領空侵犯を行ったほか、日本の防空識別圏に入って航空自衛隊機が緊急発進(スクランブル)するケースが相次いでいた。中国空軍は設定直後、2機の大型偵察機のほか、早期警戒機や戦闘機を出動させ、尖閣付近の上空でパトロールを実施した。

 防空識別圏は、各国が領空の外側に防衛上の目的で設ける空域である。日本を含む世界の主要諸国は設定している。高速戦闘用航空機、超高速ミサイルなどの登場で、領土から12カイリまでの領空では奇襲に対応しきれないからだ。

 この圏内に事前申告なく侵入した航空機は、スクランブルした戦闘機によって領空侵入を阻止される。警告を聞かず、領空に侵入した場合には、撃墜されることもある。

 各国が国際慣習法に基づき設けているからといって、今回の措置を軽視すべきではない。同じ措置でも、その国家が過去にどのような行動をとっているか、いかなる目的で、どこに設定するかによって状況は変わってくるからだ。

 中国では、漢民族が他の55の少数民族を支配している。建国以来日は浅いが、チベット、ウイグルを侵略・併合。その後も非同盟政策を採用していたインドや、同じ共産主義国であるソ連やベトナムとも干戈(かんか)を交えている。韓国動乱では、人民解放軍が義勇軍として欧米の主要諸国と戦った。

 近年はベトナムやフィリピンなどと南シナ海の島嶼(とうしょ)をめぐる領有権争いを激化させている。その上、台湾を武力併合する考えも捨てていない。最近は尖閣奪取を目論み、準軍事組織や解放軍の威嚇によって日本政府に実効支配を弱める措置を強要している。

 中国の狙いは、指摘されているように尖閣周辺の海底資源だけではない。アジア・西太平洋の覇権国家を目指す上で、西太平洋海域への通行路として尖閣領有が欠かせないからだ。この点で尖閣だけでなく、沖縄全体の奪取も視野に入れている。「沖縄はもともと中国のもの」との主張が顕在化し始めたのもこのためだ。防空識別圏もこうした狙いを踏まえ、尖閣上空の日本領空に重ねて設定している。

 中国が尖閣奪取に向けた動きを強める中、日本政府は「冷静対処」を表向きの理由に無為無策である。尖閣を国有化した後も、実効支配は強化されていない。このことが今日の事態を招いたという自覚が不可欠だ。

 実効支配を強化せよ

 いくら「固有の領土」論を唱えていても、無為無策では領有権が移動しかねない。取りあえずの実効支配強化策として、尖閣周辺海域の環境保全、乱れた生態系の是正から取り組むべきである。

(11月25日付社説)