長周期地震動、高層ビルでの対策が急務だ


 静岡沖から九州東方沖にかけての南海トラフで巨大地震が起きた場合、超高層ビルの上層階が揺れ幅の大きい「長周期地震動」でどれくらい揺れるかについて内閣府の検討会が報告書を公表した。

 倒壊の危険性は低いが、転倒による負傷やエレベーターの閉じ込め、天井材の落下などが予想される。対策が急務だ。

大阪で揺れ幅が最大6㍍

 検討会によると、高さ200~300㍍のビルが大阪市住之江区の埋め立て地にあるケースで、紀伊半島沖が震源のマグニチュード(M)9級の地震による最上階の揺れ幅は最大約6㍍に達する。名古屋市中村区にあれば約2㍍、東京23区では約2~3㍍と推定された。

 この高さは約240㍍の東京都庁舎や東京・池袋の「サンシャイン60」、約300㍍の大阪市阿倍野区の「あべのハルカス」や横浜市の「ランドマークタワー」に相当する。揺れが2㍍を超えると、ビルの高層階では人が立っているのが難しくなる。大阪や神戸で7分以上、東京では3~5分続くという。

 長周期地震動は遠くまで伝わる。東日本大震災の時には東京や大阪の高層ビルも揺れた。南海トラフ巨大地震が発生すれば、さらに大きな揺れとなる可能性が高い。

 落下物や動いた家具類で負傷しないようあらかじめ固定し、日頃から室内で安全な場所を確保することが必要だ。エレベーターが停止し、電気や水道が止まった時のために水や食料の備蓄も求められる。

 東京、名古屋、大阪の三大都市圏は、固い岩盤の上に軟らかい堆積層が乗った地質構造となっている。こうした地盤は大きな揺れが長く続きやすい。超高層ビルは全国に約3000棟あるが、大半が三大都市圏に集中している。

 検討会は過去の実験結果を根拠に、倒壊の可能性は低いと推定している。だが、実際にはそれぞれのビルごとに構造などが違うため、改めて安全性を検証することが望ましい。

 報告書の公表を受け、国土交通省は超高層ビルを新改築する事業者に対し、長周期地震動を踏まえた設計にするよう義務付ける方針だ。既存のビルに関しては詳細診断や改修費の補助制度を設ける。揺れを吸収するダンパーの設置などを進めてもらいたい。

 また、石油タンクの安全対策も欠かせない。貯蔵する石油が激しく波打つ「スロッシング」が起き、火災が発生する恐れがあるためだ。2003年の十勝沖地震では北海道苫小牧市の石油タンクで火災が生じた。

 政府の地震調査委員会は、南海トラフで今後30年以内にM8~9級の巨大地震が発生する確率を70%程度と試算している。直近300年を見ても、1707年の宝永地震(M8・6)から1946年の昭和南海地震(M8・0)まで約100~150年間隔で5回起きた。

被害軽減へ万全の備えを

 内閣府は、関東大震災のような相模トラフ沿いの巨大地震についても、来年2月までに新たな検討会を設けて長周期地震動の揺れを推定する。被害軽減へ万全の備えが必要だ。
(11月22日付社説)