拉致問題週間、検討すべき対北制裁の復活


 きょうから北朝鮮人権侵害問題啓発週間に入った。北朝鮮が工作員を秘密裏に日本に送り込んで日本人を拉致したことは、あからさまな主権侵害であり、国民を生け捕りにして連れ去った非道な人権侵害だ。

 政府が認定した拉致被害者17人の事件は1977年から83年の間に起きている。このほか、拉致の疑いが濃厚な行方不明者は特定失踪者問題調査会が把握しただけでも78人に上る。

進展見られぬ再調査

 北朝鮮が日本人を拉致したことについて、2002年の日朝首脳会談で最高権力者だった金正日総書記自らが当時の小泉純一郎首相に「70年代から80年代の初めに特殊機関の中に妄動主義、英雄主義があり、日本語学習と韓国潜入の目的から拉致問題を起こした。総書記自身が知るに至り、関係者は処罰を受けた。事件は遺憾であり、お詫びしたい」と謝罪した。

 拉致被害者らのうち地村保志さん・富貴惠さん夫妻、蓮池薫さん・祐木子さん夫妻、曽我ひとみさんが帰国した。しかし、北朝鮮がこれで幕引きにしようとしたのが問題だった。金総書記が事件を認めただけでなく、この時の首脳会談が日朝国交正常化を模索したものであった以上、被害者全員の日本帰国と特定失踪者の調査、さらに被害者と家族への賠償という措置が取られて当然である。

 その後、北朝鮮で世襲による新体制が12年4月の金正恩第1書記就任をもってスタートし、同年12月に発足した第2次安倍政権との間で膠着した日朝問題の打開が模索された。

 昨年5月にスウェーデンのストックホルムで開かれた日朝外務省局長級協議における合意では、拉致問題などの懸案事項を解決し、国交正常化を実現することが謳われた。北朝鮮側は、拉致被害者および拉致の可能性のある特定失踪者、終戦前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨と墓地、北朝鮮に渡った日本人妻について再調査することを約束した。

 これに北朝鮮が「特別調査委員会」を設置したことをもって、政府は昨年7月、経済制裁のうち①人的往来の規制措置②送金などに関する規制措置③人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止措置――を解除した。

 しかし、北朝鮮の特別調査委は制裁解除を誘うための張りぼて同然で、1年以上が経過しても拉致被害者らの再調査の進展はない。これでは言語道断の人質外交である。

 北朝鮮は拉致の他にもテロ・粛清など内外で人権侵害および主権侵害を繰り返している。国連安保理決議違反となる核実験、弾道ミサイル発射実験なども行っており、その無法ぶりには厳しく臨まざるを得ない。

スパイ潜入へ治安強化を

 ストックホルム合意が履行されず拉致問題に進展がないとなれば、我が国だけが制裁解除を続けるのは理不尽だ。再び北朝鮮に制裁を科し、合意以前の状態に戻して交渉を仕切り直すしかない。

 また、現在も「特殊機関」からのスパイ潜入や不審な行動が続いていると見て、新たな被害を出さないよう治安を強化すべきだ。

(12月10日付社説)