英の対中傾斜、人権や安保で迎合するな


 中国の習近平国家主席が英国を訪問し、キャメロン首相と会談した。両国は総額約400億ポンド(約7兆4000億円)に上る投資案件で合意した。

 だが、キャメロン首相は中国との経済関係強化に力を入れるあまり、人権や安全保障などの問題への批判を封印した。中国に傾斜し過ぎれば、価値観を共有する米国との「特別な関係」も損ないかねない。

 原発への投資で合意

 首脳会談では中国勢による原発事業参加などが協議され、英南西部の原発新設事業などへの投資や、東部の原発への中国独自の原子炉技術導入などが決まった。キャメロン首相は「歴史的な取引」と指摘。習主席は「(両国は)共により明るい将来を築いていく」と語った。

 英国が中国との関係を緊密化する背景には、大幅な経常赤字を抱え、常に海外資金による埋め合わせを必要とする構造的な問題がある。

 英当局は将来の国際通貨と目される人民元の関連取引に注目し、シティー(ロンドンの金融街)を元取引の中心としたい考えだ。今年3月には、先進7カ国(G7)の中で最も早く、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した。

 しかし、G7の一員である英国が、中国の人権や安保などの問題を批判しなかったことには疑問が残る。

 G7は自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有し、国際社会の秩序を維持してきた。英国が中国に迎合するかのような態度を取れば、誤ったメッセージを送ることになりかねない。

 中国の指導者が欧州を訪問する場合、複数の国を歴訪することが多いが、今回の習主席は英国のみで同国を重視する姿勢を示した。同じG7で中国の強引な海洋進出を批判する日米と英国との間にくさびを打ち込む狙いもあろう。米国と英国との「特別な関係」にひびが入れば、中国の思うつぼだ。

 キャメロン首相は2012年、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談した。中国は猛反発し、両国関係は一時冷え込んだが、首相はこれを失敗だったと認識しているようだ。ダライ・ラマが今年9月に訪英した際には面会を避けた。ダライ・ラマは保守系誌スペクテーターに、英政府の姿勢は「カネ、カネ、カネだ。道義はどこにあるのか」と嘆いた。キャメロン首相は、この言葉を重く受け止めなければなるまい。

 中国国内の人権状況は悪化している。今年7~9月に人権派弁護士や活動家約300人が拘束され、うち20人はいまだに釈放されていない。チベットやウイグルなど少数民族への締め付けも強まっている。東・南シナ海でも強引な海洋進出を続けており、日本を含む周辺国を脅かしている。

 現状変更の試み許すな

 確かに経済は重要だが、対中依存を強めれば足元を見られるだけだろう。

 6月のG7首脳会議では、中国を念頭に「力による領土の現状変更の試みを許さない」との姿勢を示した。英国にはこうした立場を貫いてもらいたい。

(10月26日付社説)