安全最優先で原発利用を


 国際原子力機関(IAEA)は、2011年3月の東京電力福島第1原発事故の検証結果をまとめた最終報告書で、大事故につながった主な要因として「原発は安全だという思い込みが日本にあった」ため、備えが不十分になったと指摘した。

 日本では今年8月、九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が再稼働し、約2年ぶりに「原発ゼロ」が解消された。事故の教訓を生かし、安全最優先で原発利用を進めたい。

 「十分な備えなかった」

 42カ国から約180人の専門家らが参加して作成された報告書は、自然災害などに対する福島第1原発の脆弱(ぜいじゃく)性が、組織的、包括的に点検されていなかったことを問題視。自然災害の想定の際には、複数の災害が「同時に起きたり、連続して発生したりする可能性を踏まえ、原発への影響を考慮する必要がある」と訴えた。

 また、同原発の運転員らは複合的な電源や冷却機能の喪失に十分な備えをしていなかったと指摘。適切な訓練を受けておらず、悪化した事態に対応する機器も不十分だったとした。

 政府は事故後、過酷事故対策などを強化した新規制基準を決めた。原子力規制委員会による適合性審査に合格することが原発再稼働の前提となる。重大な事故を引き起こした日本が、原発の安全性向上に努めるのは当然のことだ。

 しかし事故以後、原発に「ゼロリスク」を求める傾向が強まっているのは問題だ。審査に合格した中で、関西電力高浜3、4号機(福井県)は福井地裁が今年4月に運転差し止めの仮処分決定を出した。地裁の判断は「原発の新規制基準は緩やかに過ぎ、適合しても安全性は確保されていない。新基準は合理性を欠く」というものだ。

 これに対して、規制委の田中俊一委員長は「絶対安全を求めると、結局は安全神話に陥るという立場で(規制を)やってきているが、その意味が理解されなかったのは極めて遺憾だ」と不満を口にした。

 ただ、規制委自体にも活断層の評価などでゼロリスクを求める傾向があるのではないか。2013年7月に審査が始まって以来、申請した15原発25基のうち、合格したのは3原発5基にとどまる。審査の効率化に努めるべきだ。

 原発停止で、代替の火力発電に用いる液化天然ガス(LNG)などの燃料輸入額は10年度の18兆円から、14年度には25兆円に膨らんだ。電気料金は事故前に比べ、家庭用で25%、企業用で40%上昇した。これでは経済再生に支障を来そう。

 運転中に二酸化炭素(CO2)を排出しない原発は、温暖化対策にも活用できる。政府は電源構成に占める原発の比率を2030年度に20~22%へ高める目標を掲げた。

 正しい安全文化確立を

 IAEAの天野之弥事務局長は「福島第1原発事故につながった要素の幾つかは、日本特有のものではない。問い続け、教訓から学ぼうとする姿勢が安全文化のカギになる」と述べた。日本をはじめ世界各国が胸に刻むべき言葉だ。正しい安全文化の確立に努めたい。

(9月4日付社説)