マレー機撃墜1年、国際社会は徹底解明せよ


 ウクライナ東部ドネツク州上空でマレーシア航空機MH17便が撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した事件から満1年(7月17日)を前に、マレーシア主導でオランダ、オーストラリア、ベルギー、ウクライナの関係5カ国が共同で犯人の責任を追及する国際犯罪法廷の設置のための決議案を国連安全保障理事会に提出した。

 理事会は決議案を採決したが、常任理事国のロシアが拒否権を行使した。

 蘭安全委が「親露派関与」

 安保理の採決に先立ち、ロシアのプーチン大統領はオランダのルッテ首相との電話会談で、国際法廷の設置は「時期尚早であり、非生産的だ」と述べ、オランダの安全委員会が10月にも最終報告書にまとめる原因調査を優先すべきだとの考えを伝えていた。

 ロシアは実行犯の処罰を要求する一方、国際法廷設置には言及しない独自の決議案を提出していた。拒否権行使は予想されたことではあるが、事件の究明をさらに難しくするだけに遺憾と言うほかない。

 マレーシア機にはマレーシア人乗員15人のほか10カ国の乗客が乗っていた。その中で死者が193人と最も多かったオランダの安全委が事件発生後、原因調査を主導してきた。しかし、主にウクライナ、欧米とロシアとの対立という政治的な要件と、墜落現場がウクライナの政府軍と親露派武装集団との戦闘地域であることからくる現地調査の困難が絡んでいるため、事件の真相解明が長引いた。

 安全委が今月初めに関係国に送った報告書草案は、親露派武装集団が事件に関与したと結論付けていると言われる。親露派の支配地域から発射された旧ソ連製の地対空ミサイル「ブク」による撃墜事件と認定した内容で、ロシアは「答えより疑問が多い報告書」と強く反発した。

 ウクライナ政府は、親露派が事件に関与したと一貫して断言している。一方、ロシア連邦航空運輸局幹部は、独自のデータをもとに、マレーシア機を撃墜したミサイルは地対空ではなく空対空、つまりウクライナ戦闘機が発射したミサイルの可能性が高いと主張した。親露派側も「我々は当時、ミサイルの発射地域を支配していなかった」と事件への関与を否定した。

 ただ事件前後、ロシア国営メディアは「親露派がウクライナ軍のミサイルを奪取した」「親露派がウクライナ空軍機を撃墜した」と戦果をアピール。ところが民間機と判明後に配信内容を取り消すなど経緯に不審な点がある。

 米国と欧州連合(EU)はマレーシア機事件後、ロシアに対する制裁を強化し、ロシアも欧米からの農産品輸入禁止など報復措置を取った。

 安全委の最終報告書は、親露派によるミサイル誤射として、親露派を支持するロシアへの非難のトーンが強いものと予想される。

 ロシアは全面的に協力を

 多くの犠牲者を出した事件であり、責任をうやむやにすることはできない。

 国際社会は徹底解明する必要がある。ロシアも全面的に協力すべきだ。

(7月24日付社説)