対露政策、米は核戦力含む抑止力向上を


 米軍制服組トップである統合参謀本部議長に指名されたジョセフ・ダンフォード海兵隊総司令官が、ロシアは米国の安全保障にとって最大の脅威だとの見方を示し、その動向は「まさに憂慮すべきもの」と語った。

 ダンフォード氏は中国がロシアに続くとの認識を表明し、3番目に北朝鮮、その下に過激派組織「イスラム国」を位置付けた。これは、中国と比べ軍事力ではロシアが勝っているからに他ならない。

 次期米統参議長が憂慮

 米上院軍事委員会で開かれた公聴会でダンフォード氏は、米国にとって最大の脅威が核兵器の大量保有や侵略を繰り返す近年の歴史からみてロシアであると指摘した。

 ウクライナ危機で米露関係は冷戦後最悪と言える中、ダンフォード氏の発言は新冷戦が到来する事態を恐れ、米政権と米軍内のコンセンサスを率直に述べたものだ。

 最近のロシアの強硬姿勢は看過できないものがある。プーチン大統領は3月、昨年ウクライナ南部クリミア半島に軍事介入した際、核戦力の使用も視野に準備していたと証言。さらに先月、大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基以上を年内に増強すると表明した。

 こうした発言を受け、米国では冷戦時代さながらの核抑止をめぐる議論が活発化。政府、議会とも、核を振りかざして米欧を牽制(けんせい)するロシアに危機感を深め、米軍の核戦力の維持が不可欠だとの認識を共有している。当然のことだ。

 ロシアはクリミア半島を一方的に併合し、ウクライナ東部で同国政府軍と戦う親ロシア派武装勢力に対する軍事支援を行っている。

 だがウクライナ危機発生後に主要8カ国(G8)を追放され、日本を含む先進7カ国(G7)などが経済制裁を発動した結果、ロシア経済は打撃を受けて低迷している。

 ロシア中部ウファで開かれた上海協力機構(SCO)や新興5カ国(BRICS)の首脳会議では、プーチン大統領がG7への対抗姿勢を鮮明にし、BRICS首脳会議の共同宣言では制裁を非難した。しかし、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害するロシアに非難する資格はない。

 北大西洋条約機構(NATO)はロシアに対抗するため、即応部隊の人員を2倍以上の最大4万人に増強する。この部隊をめぐっては、カーター米国防長官が米軍の特殊要員や輸送機などを提供する意向を表明したほか、これとは別にバルト3国や東欧に戦車や歩兵戦闘車などを事前配備する方針も示すなど、ロシアに地理的に近いNATO加盟国の防衛を強化する姿勢を鮮明にしている。

 オバマ米政権はウクライナ政府軍に殺傷能力のない軍需品を供与しているが、殺傷能力のある武器に関しては検討中だという。ダンフォード氏は公聴会で、武器提供について「合理的だ」と述べた。

 停戦合意の履行迫れ

 米国は抑止力を高めつつ、ロシアにウクライナ停戦合意の履行を迫るなど自制を求めていくべきだ。

(7月15日付社説)