出生率低下、官民挙げての対策強化を


 厚生労働省が発表した2014年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に生む子供の数の推計値を示す合計特殊出生率は1・42で、前年から0・01ポイント低下した。低下は9年ぶりだ。

人口減少の流れ加速

 出生率は現在40代前半の「団塊ジュニア世代」の出産に支えられ、06年から回復傾向を見せていた。しかし、この世代に続く30代の伸びが鈍化したほか、20代が低下し、改善に歯止めが掛かった。

 また、出生数は100万3532人で前年より2万6284人減少。死亡数(127万3020人)が8年連続で上回った。人口の自然減は26万9488人で過去最大幅となって人口減少の流れが加速した。

 婚姻件数は戦後最少の64万3740組で、平均初婚年齢は夫31・1歳、妻29・4歳で、いずれもわずかに上昇。第1子を生んだ時の女性の平均年齢は30・6歳(前年30・4歳)で、晩婚、晩産化が進んだ。晩婚化は少子化の要因とされており、実効性ある対策が求められる。

 厚労省の国立社会保障・人口問題研究所は、日本の総人口が10年の1億2806万人から60年には8674万人に減少すると予測している。人口減少が続けば、経済規模が縮小し、社会保障制度の維持も困難となって国力の低下を招くだろう。その意味で、現在の日本は危機的状況にあると言える。

 今回の人口動態統計発表を受け、有村治子少子化担当相が「(少子化の)流れを止めて反転させるには相当なエネルギー、国民的運動が必要」と強調したように、出生率の回復には官民挙げての取り組み強化が求められよう。

 政府は昨年末に閣議決定した地方創生への長期ビジョンの中で、若い世代の結婚や子育ての希望が実現すれば、合計特殊出生率が1・8に向上することが見込まれると指摘。30年に1・8に改善し、40年に2・07まで回復すれば、60年には人口1億人程度を維持できるとの展望を示した。

 さらに今年3月の少子化社会対策大綱では、結婚から子育てまでの各段階に応じた取り組みが必要と明記。個人が希望する時期に結婚、出産できる環境を整備するため、自治体の婚活事業の後押しなど結婚支援策にまで踏み込んだ。人口減少抑制のための政治手腕が問われる。

 今回の統計によると、都道府県別の出生率は、1人当たり県民所得(12年度)で全国最低の沖縄が1・86で最も高く、全国で所得1位の東京が1・15で最低だった。

 05年版の厚生労働白書では、沖縄の出生率が高い理由として、他の都道府県に比べて共同社会的な精神が残っていることや、男子を跡継ぎとする意識が強いので男子が生まれるまで出産を制限しないことなどを挙げている。それぞれの地域で事情は違うにせよ、一つの参考にはなるのではないか。

家族の価値を伝えたい

 厚労省などの調査によれば、18~29歳の未婚者で結婚の意思のある人の割合は、男女とも9割前後に上る。若い人たちに結婚の素晴らしさや家族の価値を伝えたい。

(6月14日付社説)